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LUST OF CALAMITY  作者: 神衣舞
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回想夢夜曲『透明人間の殺人事件』

『ある山奥の洋館で男が死んだ。

 彼の背中には倒れた燭台が刺さっており、肺まで達していた。

 その日、館の主を祝う会が催されており、いつもの数倍の人がこの館におり、また死んだ男は相当に評判が悪く、実際恨まれる憶えは山のようにあった。

 故に誰もがこれを事故か殺人か図りかねた。

 これにある男が殺人だと断じ、その理由をつらつらと述べた。

 それでその男は殺害されたことになり、今度は犯人探しが始まった。

 その過程で関係の宜しくなかった者が言い争い、それを仲裁しようとした館の主を勢い余って殺害してしまった。

 さて、最初の死が事故だとして

 館の主を殺したのは一体誰か?』


 作者不明 『強欲なる支配者』




 それは、悪夢を蒐集する者である。

 世界を一つの本と仮定するならば、絶え間なく捲られ続ける頁は過去という分類に死蔵される。

 ここから歴史の一点を読み返す。

 読み返された文章は再び現在に立ち戻って意味を為す。

 それは悪夢を検索する。

 膨大なる無意味の記述からただ惨劇だけを引き出し呼び起こす。

 それは『今』読み返される事で再び『今』に記述され、しかしその実は過去にあるがために痛みと苦しみと悲しみを引きずりながら慟哭する。

 まるで癒えぬ傷を抉り返すが如くに。

 あらゆる過去はそれによって検索され、それが望む限り何度も何度も抉り出される。

 癒えぬ傷を抱いたまま、立ち戻れぬ過去への悔恨に血を吐きながら。

 しかし、それもまた立ち戻れぬ過去への悔恨者であった。

 はるか彼方にて恨みを抱き、その全てを失った時、あるのは埋め様のない消失感のみ。

 ここにあることすらも否定したいと願いながら、今ここにある自分が何かを出来るのではないかと淡い期待を抱き、それそのものを嘲笑う。

 自分こそがあるべき意味なく、ある事を強制された者。

 だからこそ、無感動に絶望を掘り起こし、地に燻る種火に注ぐ事ができる。

 黒く濁った煙がもうもうと立ち昇り、人という種を冒していく。その光景を淡々と見ることができる。

 もし、ここで自分が死んだら。

 全てを放り投げて逃げれば。

 きっとこの町は取り戻せぬ場所で永遠に小さな膿を抱え続けるに違いない。

 人に宿った小さな共通認識はやがて巨大な腫瘍となる。

 それは数多の種を食い滅ぼし、人間の反映を飾ってきた。

 しかし、その刃はあっさり己の喉に喰らいつく。

 その事実に対する認識は余りにも希薄だと思う。

 現に。

 全ての思惑通りに魔術師という種類の人間が同じ人間に化け物扱いされ、鬱屈の捌け口となっている。

 このまま事態が進行すれば、彼らは怒りと共に反逆し、そして人は彼らを敵と認識する。

 繰り返されてきた虐殺が再び始まる。

 そのシナリオを余りにも無感動にしかししっかりと進んでいた。




 本がある。

 願いが叶う本がある。

 その本の願いとは一体誰の本だったのか?




 願いを叶えるおまじない。

 それは隠しとおさねばならない秘密。

 しかしその秘密は願いから恐怖へと転がり落ちた。

 果たして、その恐怖は誰の物だったのか。




 悪夢のサーカス団が夜を舞う。

 瞳を集めて西から東へ。

 彼らが本当に欲しい瞳は、一体何所にあるのか。




 人形たちが嘲り笑う。

 奪われた者に囁きかける。

 大事な物を奪われた。

 操られるだけが人形の定め。

 では今彼女らは、誰の糸で願い想うか。




 そして天空でただ俯瞰する。

 無言にて羽送り、過去を率いて今に仇為す。

 その意味は誰がためにあるか。




 透明人間の殺人事件。

 館の主は殺された。

 その犯人は一体誰か?

 うっかり死んだ男が犯人。

 彼が正しい者であれば事故と断じられたか。

 殺人と断定した男が犯人。

 彼が余計なことを言わなければ、全ては穏やかに片付いたのか。

 言い争った男が犯人。

 彼らが理性を持ち、平静を保つ事が出来たなら、この死は生まれる事がなかったか。

 この場を治めきれぬ主が犯人。

 彼がしかとその場を治めていれば、混乱は起きなかったのだろうか。

 動揺し、不安を感染した皆が犯人。

 誰もが疑心に陥り、雰囲気は人にひしひしと感染する。

 誰もがそれを止めていれば、主は死なずそこにあったか。

 燭台を造りし職人が犯人。

 彼が安全を考え造れば、男の死はなかったか。

 この館を建てた大工が犯人。

 彼がその部屋をかのように設計しなければ、男の死はなかっただろうか。

 職人の師が犯人。

 彼らが正しく教えていれば、この死は起きえなかったか。




 全ての原因が連関し、その全ては過去へと疾走する。

 過去へ昔へ、そうして至る先に始まりがあるとすれば

 主の死は全てが始まった時に定められていたと言うべきか。




 世界こそが、犯人。

 生まれなければこの死はありえなかった。




 透明人間の殺人事件。

 この死は一体誰が引き起こした物だろうか。




 透明人間の殺人事件。

 この混乱の果ては果たして定められており、果たして、誰に何を齎すのか。




 ただ、私はこう歌う。

 透明『人間』の殺人事件。

 全ては人間であるが故に起きた災いと。

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