第2話 魔力の喪失
第一章 第2話 魔力の消失
意識が暗闇へと落ちていく
おいおい嘘だろ…?転生してたった5年でお陀仏なんて聞いてないぞ
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「うっっ」
目の前に見慣れた景色が映し出される、我が家だ
何か悪い夢だったのかなと思い体を起こしてみる
しかしなんだろう、何か体から抜けたようなそんな感じがする
「起きたか」
ふと、右から声がしたのでその方向に目をやると
「師匠!」
師匠だ!師匠が生きていたのだ、しかし、あの状態から生き残れるなんてことがあるのだろうか
「わしはお主を守れんかった、すまんことをしたな」
「いえいえ、師匠は充分力を尽くしてくださいましたよ、それよりあいつは何だったんです?」
魔神復活とかなんとか言ってたし、あのレベルの魔術を受けながら師匠を倒した、化け物だということは間違いない
「あいつはイポスという名の魔人族、その中でも数少ない邪悪とされている種『悪魔』その中でも上位の中の上位の存在、『超上位悪魔』そのうちの1体じゃ」
悪魔か、思えば少しシルエットが人族に似ている気もした、それに人間語を喋っていたし
やっぱ相当なやつだったんだな
「何故悪魔が邪悪な存在とされているのですか?」
「それはじゃな…時は遡り人魔歴20年ほどのことじゃ…」
人魔歴っていうのは魔人バエルの誕生された日から数えられる、いわば西暦のようなものだ
今は人魔歴2310年だから相当昔になるな
「人魔歴20年、魔人バエルは禁忌の魔術に手を染め代償として魔人と魔神の体に分かれた、そして元々存在していた悪魔種の一部に自身の力を分け与え6体の超上位悪魔を作り出したのじゃ、魔神バエルが打ち倒され、封印されてからしばらくは動きもなく、見つけることさえできなかったとされるのじゃが…」
あんなレベルの化け物6体分の力分け与えるって、とんだ化け物じゃないか
「今からおよそ50年前、やつらが動き始め、魔神バエルの復活をさせる為に現れるようになったんじゃ、以前わしはバエルの右腕部があるとされる場所でイポスと出会い、敗北を喫したのじゃ」
知り合いっぽい雰囲気だったのはそういう事だったのか、にしてもパーツを集めている…か完成したらヤバそうだな、こちらもエグ○ディアで対抗しなくては
と、こんな会話をしていると部屋へ母さんが入ってくる
「あなた!ルークが起きたわよ!」
家の奥からドタドタと慌ただしい足音が聞こえてくる
「ルーク!大丈夫なのか!?治癒魔術は施してあるが、痛いところとかないのか?----」
どうやら話を聞いてみると俺たちが向かった方向からとてつもない爆発が見えたので急いで向かったところ2人して重症、師匠の方は瀕死で治癒魔術が遅れていたら危なかったらしい
俺の魔力については師匠から母さんと父さんに伝えてもらった
師匠の説明によると俺の魔力はイポスに奪われ、普通の魔力消費と違い、回復することがないらしい
せっかくの異世界転生が台無しだ
「そこでなのですが、お父さん、お母さん、ルークくんを暫しわしの元に置かせてはくれませんか?」
師匠のいつもの老人言葉じゃない、真剣な表情だ
「魔力が回復するかどうかはまだ分からないですが、必ず悪いようにはしませんので」
確かに、ここでボーッと生きるより師匠について行った方が魔力の回復の可能性もあるのか、それなら俺からも頼むとしよう
「母さん、父さん、俺からもお願いします」
母さんも父さんも、困った顔をしていたが最終的にはOKを出してくれたあんな事があった後なのに、理解のある親を持てて良かったと思う
---数日後---
「それじゃあ母さん、父さん、行ってまいります!」
「あまり無茶はしないでね?」
「どうか、息子をよろしくお願いします」
「ええ、命に変えてもお守りいたしますぞ」
齢5歳にして親離れ、少し早すぎたかなと少し後悔があるな
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「ところで師匠、これからどこへ向かうのですか?」
「ふむ、とりあえず今の状態を調べたいしのう、わしの家に行くとしようか」
まさかの師匠の家!やっぱ熟練魔術師ならではのものとかあるのだろうか、もちろん魔力の無い俺には扱え無いのだが
「ここからどれくらいの距離何ですかね?」
「そうじゃなぁ、来る時は1ヶ月程かかったからそのくらいかのう」
ん?
ちょっと待て、
1ヶ月!?
「し、師匠かなり遠くから来てらしたんですね」
「お主の親御さんにどうしてもと頼まれてのう、わしももう歳じゃから最後に1回くらいはやってみようと思ったのじゃよ」
「ところで、つかぬ事をお聞きするのですが、師匠はおいくつなのですか?」
「ほっほっほ、わしか?わしは今年で86になるかのう」
す、すげぇ、前世とこっちの世界の年齢足しても全然届かない大先輩じゃないか、さすがは師匠と言ったところだ
---1ヶ月後---
出発から1ヶ月、そろそろ着く頃だが、この道中いくら何でもヌルゲーすぎた
時には谷を越えたり強そうな魔族が出てくる事もあったさ
ただ、師匠が強すぎた、谷は風魔術やら土魔術でひとっ飛び、魔族は高火力の魔術でワンパンときた
師匠の凄さを改めて実感したのだ
「よーし、ついたぞここがわしの家じゃ」
長旅1ヶ月ようやく着いたし笑の家は山の奥などではなく、普通に街の一角に建っていた
街の一角にあるとはいえ、しばらく家を空けていたからかすこし気味が悪い、辺りは夜で暗いので尚更雰囲気がすごい
「師匠、案外こういう場所に家があったんですね」
「なんじゃ?何か不満か?」
「てっきり山奥の伝説の秘境に住んでいるのかと」
「ほっほっほ、わしはそんな伝説の魔術師のようなことはせんよ、ささ早く入りなさい」
「お邪魔します…」
師匠の家は端的に言うと『普通』だった
やっぱこっちの世界に来てどうも先入観というものが出てしまうな
「さてと、長旅の後だ、少しゆっくりするとしよう、今紅茶を持って来るから少し待っておれ」
紅茶?もしかしてこっちの世界にもあるのか!?前世では午後しか飲めないやつしか飲んだことがないがこっちの世界に来てから新しい味ばっかりだったからな、たまには慣れ親しんだ味に触れてみたい
しばらく待っていると目の前に薄い茶色の液体が出された、見た目はまさに紅茶だ
「では、頂きます」
まずは1口、ああ、懐かしい味が口全体に広まっ…
「ゲッホゲホッ」
「おお、どうしたどうした、何か変なものでも入っていたか?」
「い、いえ初めて飲んだので少し驚いただけです」
辛かった
なんて言うんだろう、俺が今まで培ってきたお茶という概念が崩れた気がする
「こ、これ辛いですね」
「この辛さは灼熱茸のエキスによるものじゃ、長旅の疲れを吹き飛ばすには丁度いいと思ったんじゃが、少し多すぎたかの」
ま、まあいつもの味を予想して飲んだからビックリはしたが、そのフィルターを外して飲めば意外と美味しい
突き抜けるような辛さで疲労が吹き飛んでいくような
「ゲッホゲッホゲホ」
うん、やっぱ辛い
「ほっほっほ、さて少し現状について話しておくことがある、まず魔神バエルの復活についてじゃ、わしの知る限り集まっているのは右腕と魔力の2つじゃ、そして残るは左腕、両足、頭、胴体の5つじゃ、それぞれ主要な大国5ヶ国にて封印、管理されているのじゃ、そうそう容易く奪還できる訳では無い」
「そうなると、何故右腕の封印は突破されたんですか?」
俺の魔力は例外として、右腕の封印が解かれたのは何故なんだ?1つだけ封印が弱かった訳でもあるまいし
「魔族達の大暴走…『スタンピード』があったんじゃよ、それに合わせられ無数の魔族とイポスを相手にし、負けてしまったのじゃ」
「もし魔神バエルが復活したとして、勝てる算段はあるんですか?」
「愚問じゃな、かつて特級魔術師10名、王級魔術師4名、神級魔術師1名、それ以外にも多くの者が戦い、相打ちであったとされるのじゃ、それ程の相手を復活させてしまったら封印できる術はない」
特級である師匠を目の当たりにして、この戦力がどれだけ強大なものなのかは想像もできない
それだけの力を持ってしても相打ちって…魔神バエルどんだけ強いんだよ
「ただ、その戦った魔術師達が死ぬ間際、全ての魔力を使い、魔道具を作ったとされる、結果的に魔神バエルを打ち倒したのはその魔道具を使った戦士だったとされているのじゃ、その魔道具、名を『真槍 神殺槍』、これさえ見つけることができたらあるいは…」
「その魔道具についてもう少し聞かせていただいても?」
「そうは言っても伝説上の物じゃからな…分かっているのは黒龍山のどこかに封印されているということぐらいじゃ」
黒龍山か…とても強く縄張り意識の強い黒龍が多く住み着いている山だな、危険度ばり高だ
でも封印されし最強の武器か…男子たるもの是非とも欲しいな
「でしたら、今後は私の魔力について研究しつつその魔道具についての情報を集める、という感じですか?」
「そうなるかのう…まあ、今日はもう遅い続きは明日にでも話すとするかのう」
こうして魔力を無くした俺の魔力を取り戻すための生活が始まった