第4話 セツと魔術
ソフィアと出会ってから、ひと月が経った。怪我も癒えて、リハビリの末に杖有りでなら歩くことができるまでに回復した。しかし、脳の後遺症なのか、はたまたショック症状なのか、未だに声を発することはできない。
ソフィアはこの国の魔術研究機関で働いているらしく、日中は家を空けているが、僕のためか、いつもより早い夕方には帰宅してくれていた。そこで、僕はある一つのことを疑問に思った。
(ねぇ、ソフィアはエルフなのに、みんなにそのことは気づかれないの?てか、エルフって森の中に住んでるんだよね?どうしてこの国にいるの?)
「ん?ああ、元来、エルフというものはあまり人間と関わりたがらないものなんじゃ。それは希少種族故に、奴隷として捕えられることも多く、人間とは決して浅くはない溝があるからのぉ。でも、わしは魔術の研究がしたかったもんで、里を飛び出してきたんじゃ。ただ、エルフとバレるわけにもいかんもんで、認識阻害の魔術を常時かけておる。だから普通の人間は、わしのことは人間に見えるんじゃよ」
(ふーん…え、それじゃあなんで僕はソフィアがエルフって分かったんだ?)
「…それはおそらく、セツに魔術の才能があるからじゃ」
(魔術の才能?僕に?)
「…あぁ」
微かに残る記憶の残滓なのか、それとも流れている血が訴えかけてくるのか、僕は魔術に非常に興味が沸いていた。
(それじゃあ、僕も魔術が使えるようになれる!?)
「…勿論じゃ、と言いたいとこじゃがセツに関しては少々厳しいかもしれん」
(え、そんな…どうして?)
「ちょうどいい機会じゃ。魔術について説明してやろう」
そういうとソフィアは僕の寝ているベッドの近くに腰掛けた。
「この世界には、魔術と呼ばれる不思議な力が存在しておる。この魔術の元になっているマナと呼ばれる物質があってな、身体中にある魔力回路を通じて、外にその力を放出するのじゃ。マナとは全ての力の根源。空間中に無数に存在するそれは、人々の多様な魔力回路によって様々な力を生み出す。魔術とは、人間に自由を与えてくれるものなんじゃ。その力は、国民の生活にも根ざしており、わしらはその魔術を人類の役に立てようと研究を続けているわけじゃ」
(つまり、基本的にみんな魔術はつかえるんだよね?)
「あぁ、じゃがセツは…その肝心の魔力回路がイカれちまっておる。その怪我のせいなのかどうか原因は不明じゃが、現状壊れた魔力回路を治す方法は…無い」
(そんな…他にも魔術を使えない人とかいないの?)
「完全に使えない人はいないのぉ。魔術の欠点とも言うべきか、魔術は個人間での魔力回路の大きさや魔力の流れやすさなどの差が大きい、つまりは才能によって左右されるということじゃ。セツの魔力回路は見たところ非常に魔力操作に優れていたようじゃが、あちこちがボロボロになってしもうて、魔力が漏れに漏れて使いもんにならん。よって、魔術を出そうとしても、出力がかなり弱くなってしまうんじゃ」
(じゃあ、一応使えない訳じゃないんだね)
「そうじゃな、簡単な生活魔法くらいなら使えるじゃろう」
(生活魔法?)
「ああ、次に属性と系統と階級について話すのじゃ。人々は生まれた時から決まった形の魔力回路を持っていて、死ぬまでその形は変わらないのじゃ。その魔力回路によって、属性や系統の得意、不得意がある程度決まっておるのじゃ」
(その属性とか系統って何?)
「まぁそう急かすなて。属性は火、土、水、風の4元素がベースになっておる。これに無を加えた5属性は努力次第で誰でも習得可能じゃ。そして、稀に闇、光、氷、雷などの希少な属性が発現することもある。もしかしたら、まだ見つかっていない未知の属性もあるかもしれんのぉ。そして、系統は治療系、攻撃系、防御系、特殊系の4種類があるのじゃ。これらは個々人の魔力回路によって得意、不得意が分かれるのじゃ」
(なるほど…じゃあ階級っていうのはさっき言ってた生活魔術みたいなやつってこと?)
「そうじゃ。階級は現状、第一位階から第七位階まであって、第一位階の魔術は、普段の生活でよう使われるもんでそう呼ばれとるの。位階が上がることによって、その魔術の威力や性質等のなにかしらが変化するのじゃ。その分消耗は激しくなるがの。一般的に第四位階の習得で一人前の魔術師と呼ばれるのじゃ」
(じゃあ僕は第一位階までしか使えないんだね…)
「じゃろうな。だがそう悲観することはない。なんせわしは魔術の研究者じゃからな!わしが必ずセツの治療法を確立しよう。研究者のプライドに賭けて、そして母親として…な?」
(ソフィア…ありがとう)
「安心せい。セツはいつか必ず魔術を使えるようになる。そうだな…ほれ、これをやろう」
(これは…?)
「ここには発見されている全ての体系化された魔術がのっておる。これでも読んで、いつでも魔術を習得できるようにしておくのじゃ」
(これって…結構希少なものなんじゃない?)
「なーに、セツのためじゃ!これくらいなんともないわ!ハッハッハ」
(ありがとう、ソフィア……お母さん)
「…っ!?セツが…セツがわしのことを母と呼んだぞ!こんなに…こんなに嬉しいものなのか…!でも、いいのか…?本当の母親ではないというのに…」
(今の僕には記憶がないし…それに、ちゃんと面倒もみてくれて、仕事も早く切り上げて帰ってきてくれて、そして、僕をこんなにも愛してくれて…ソフィアは紛れもない僕のお母さんだよ)
「セツ………よーし!今日は記念日じゃ!豪華な夕飯を期待しておれよ!」
(楽しみにしてるね)
魔術はややこしい!
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