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「その孤独はいつか貴方の味方になるから」
昔、そんなことを僕に言った少女がいた。
幼い少女の澄んだ声が未だに頭の中で反芻する。
……あれからもう十年も経ったというのに。僕は十六歳になった今もその言葉にしがみついているのか。
そう思うと、少し自分が情けなくなった。
高校一年生、人生で輝かしい時期の一つだ。「青春」という言葉がよく似合う時期だと思う。
それなのに、どうして僕の世界はこんなにも彩りがないのだろう。
十歳の春。
あの日は、心地の良い夜だった。涼しい風が僕の頬を撫でていた感触を覚えている。
『ねぇ、翔』
『なに? 』
『世界は私を助けてくれないのね』
それが母から聞いた最後の言葉だった。
母は何に不安や恐怖を抱いていたのだろう。僕の前から姿を消した今、その真意を知ることはない。
ただ、あの時の母の顔は悲愴に覆われており、瞳は絶望で溢れていた。
次の日、何者かに父が殺された。そして、その次の日、一つ下の当時九歳だった妹が自殺した。
傍から見れば、僕は一人残された「可哀そうな少年」だった。
当時の僕は一体何が起こったのか分からず、涙一つ流すことはなかった。
自分に起こったことなのに、他人事のように感じていたのだ。世間の声は「可哀そうな少年」から、家族を全員失っても、涙一つ流さない「冷淡な少年」へと変わっていった。
それでよかった。
今思っても後悔はしていない。同情など求めていなかった。
僕は純粋にどうしてこんなことになったのかと考えていたのだ。結局、答えは見つからなかった。
そして、僕は泣くタイミングを生涯失った。
父を殺したのは母だ。
断定だ。「多分」や「きっと」などは使わない。これはきっと僕の願望も含まれているのかもしれない。
どうか母が父を殺害した犯人であってほしいと……。
家族仲が悪かったわけではない。良い家族だった。
という記憶を僕の中で勝手に捏造しているのかもしれない。
当時の家族の様子を僕は思い出すことができない。どれだけ頑張っても記憶がないのだ。
……一つだけ言えるのは、僕は母も父も妹も好きだった。
その感情だけは覚えている。そして、これからも消えることはないだろう。
宇野家崩壊事件から、僕の中で一つ変わったことがある。
僕の世界はモノクロになった。色のない世界に僕は落ちた。
医者曰く、何故か分からないらしい。きっとストレス性のものだろうと言われたが、医学的な根拠がないため、薬を処方することもできないそうだ。
突如、僕は自分の世界から色を失ったのだ。
だが、それを悲観的に思うこともなかった。僕には丁度この世界が合っているのだ。