表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凪いだ夜を燃やして  作者: 夜深 まれ
1/2

「その孤独はいつか貴方の味方になるから」


 昔、そんなことを僕に言った少女がいた。

 幼い少女の澄んだ声が未だに頭の中で反芻する。

 ……あれからもう十年も経ったというのに。僕は十六歳になった今もその言葉にしがみついているのか。

 そう思うと、少し自分が情けなくなった。

 高校一年生、人生で輝かしい時期の一つだ。「青春」という言葉がよく似合う時期だと思う。

 それなのに、どうして僕の世界はこんなにも彩りがないのだろう。

 

 十歳の春。

 あの日は、心地の良い夜だった。涼しい風が僕の頬を撫でていた感触を覚えている。


『ねぇ、翔』

『なに? 』

『世界は私を助けてくれないのね』


 それが母から聞いた最後の言葉だった。

 母は何に不安や恐怖を抱いていたのだろう。僕の前から姿を消した今、その真意を知ることはない。

 ただ、あの時の母の顔は悲愴に覆われており、瞳は絶望で溢れていた。

 次の日、何者かに父が殺された。そして、その次の日、一つ下の当時九歳だった妹が自殺した。

 傍から見れば、僕は一人残された「可哀そうな少年」だった。

 当時の僕は一体何が起こったのか分からず、涙一つ流すことはなかった。

 自分に起こったことなのに、他人事のように感じていたのだ。世間の声は「可哀そうな少年」から、家族を全員失っても、涙一つ流さない「冷淡な少年」へと変わっていった。

 それでよかった。

 今思っても後悔はしていない。同情など求めていなかった。

 僕は純粋にどうしてこんなことになったのかと考えていたのだ。結局、答えは見つからなかった。

 そして、僕は泣くタイミングを生涯失った。


 父を殺したのは母だ。

 断定だ。「多分」や「きっと」などは使わない。これはきっと僕の願望も含まれているのかもしれない。

 どうか母が父を殺害した犯人であってほしいと……。


 家族仲が悪かったわけではない。良い家族だった。

 という記憶を僕の中で勝手に捏造しているのかもしれない。

 当時の家族の様子を僕は思い出すことができない。どれだけ頑張っても記憶がないのだ。 

 ……一つだけ言えるのは、僕は母も父も妹も好きだった。

 その感情だけは覚えている。そして、これからも消えることはないだろう。

 

 宇野家崩壊事件から、僕の中で一つ変わったことがある。

 僕の世界はモノクロになった。色のない世界に僕は落ちた。

 医者曰く、何故か分からないらしい。きっとストレス性のものだろうと言われたが、医学的な根拠がないため、薬を処方することもできないそうだ。

 突如、僕は自分の世界から色を失ったのだ。

 だが、それを悲観的に思うこともなかった。僕には丁度この世界が合っているのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ