98:極東の戦士
「…新手か」
岩の戦士はそう呟くと大剣を構えてその姿に見合わぬ速さでこちらに迫ってくる、ガルマごと叩き斬ろうという気配を感じ取って飛び降りると同時に片手半剣を振るった。
大剣と片手半剣がぶつかり合って響く、だが大剣の凄まじい重さに押し負けてふき飛ばされた。
(なんだあの重さは?)
空中で体勢を直して地面に着地しながら考える、剣を通して伝わった重さは戦士とその大剣からは想像もつかないものだった。
だというのに目の前の戦士は軽々と動き振り回していた、何かの能力なのか剣自体に細工があるかは分からないが一筋縄ではいかないのは確かだった。
再びこちらに迫ってくる戦士に斧槍を突き出す、戦士が大剣を振るって斧槍は弾き飛ばされるがその隙に懐へと潜り込んだ。
「むっ!?」
「“風鳴衝波”」
手甲を纏うと同時に風を伴った拳を胴に打ち込むが…。
「なっ…」
打ち込んだ瞬間に戦士の体が飛ぶ、まるで風に飛ばされた風船の様に後ろに飛ばれた事で完璧に打ち込む事が出来なかった。
(突然軽くなった?)
拳が当たった瞬間の感触に違和感を覚える、土の入った袋を殴っていたら突然中身がなくなった様な…そんな妙な感覚だった。
戦士も俺を警戒してか構えながらこちらの動きを見ている、互いに睨み合いながらアリア達に加勢してもらうか考えていると…。
「二人共!武器を収めてください!」
制止の声と共に誰かが間に割って入る、割って入った者の顔を見て思わず動きを止めた。
元々は全身鎧だったのだろうが動きやすさを重視したのか幾つかの部位が外された鎧を身に纏い、その上から外套を羽織っているのは見知った顔だった。
「ガンザさん、良く見てください…この人達には水晶がありません」
「む…」
「一度話させてください、彼は俺と友人だったんです」
戦士は少しだけ沈黙すると大剣を下げる、それを見て安堵の息をついて振り返ったのは…。
「ラクル…か?」
「…久しぶりだな、今はベルク…だったな」
反乱が起きてから行方不明だった騎士団長の子、ラクル=ヴァリアントだった…。
―――――
「誠に申し訳ない」
比較的被害が少ない家屋で大剣を抱えた壮年の男…ガンザがこちらに頭を下げる、実害はほとんどなかった故にそこまで気にしてないのだが…。
「顔を上げてくれ、怪我をした訳でもないのだから誤解が解けたならそれで良い」
「寛大な心遣いに感謝する」
そう言ってガンザは手を合わせて頭を下げる…極東の島国に伝わる作法を取った。
「アンタ、もしかして極東の…ヒヅチの出身なのか?」
「然り、海を渡ってヒューム大陸を旅していたところにこの国でラクルに会い行動を共にしている」
「なら早く王国を出た方が良い、もう分かってるとは思うがこの国はまともな状況じゃない」
「否、そういう訳にもいかぬ」
ガンザは頭を振って俺の提案を否定する、そしてその理由を答えた。
「我はやらねばならない事がある」
「やらねばならない事?」
「我が一族の仇フィフス…奴を探して我はこの大陸にやってきた」
告げられた理由に俺達は目を見開いた…。