97:魔獣蔓延る地
「アリア、左は任せた!」
「分かったわ!」
出発してから半日、俺達はブレイジア領に入った途端に襲い掛かる魔物達を蹴散らしながら進んでいた。
出てくる魔物達は胸に水晶が埋め込まれており、既に人としての知性を感じれるものはいなかった。
上空から叫びを挙げながら無数のワイバーンが奇襲してくる、押し寄せる魔物を蹴り飛ばし戦斧を手にして迎撃しようとするが一体だけ魔物が飛び出してきた。
「ちっ…」
「“天涙護盾”!」
上空から迫ってきたワイバーン達を水の障壁が遮る、その間に飛び出してきた魔物を斬り伏せる。
アリアが跳躍して障壁の上に降り立つと炎を纏って駆ける、そしてすれ違い様にワイバーン達を斬り裂いた。
ひとまずは魔物の気配がなくなった事で武器を収めるとアリアとセレナが集まった。
「二人共、助かった」
「いえ、守るのは得意ですから」
「どういたしまして、それにしても…」
アリアが倒した魔物を見ているとルスクディーテが姿を現す、魔物達を見ながら顔をしかめた。
「こやつら、嫌な感じがするのう」
「嫌な感じ?」
「そうじゃな、在り方こそ我等に近く感じるが…欲望を無理矢理引き出して戻れなくなった、そんな感じがするわ」
「欲望…か」
納得できるところはある、グレブも捕えた奴もこんな事をしでかすほど後先考えない馬鹿ではなかった筈だ。
奴等を擁護するつもりはないがこの水晶には人をそうさせる何かがある、そう考えるのが自然だろう。
「…ひとまずは先に進もう、この先にある町は魔物避けの結界が貼られていた筈だ…運が良ければまだ無事かも知れない」
ガルマに馬車を牽かせて出発する、公爵家の領土は広い上に襲撃の間隔も短い…王国へ来た時の様に消耗を度外視して進む事は出来なかった。
魔物を倒しながら進んでいくと石造りの防壁に囲まれた町が見えてくる、門の近くまで来ると門番の姿はなく防壁には魔物が襲撃した痕が残っていた。
門を押してみると閂は掛かっておらず、身体強化で力を込めて押すとゆっくりと開いていった。
「これは…」
町のに中は死体と魔物が暴れたのだろう痕跡があった、倒れてる死体の状況からして一日以上経っているだろう…中には武装してる者もいたが半分近くは一般人だった。
「クソッ…」
余りの惨状にアリアは顔をしかめセレナは聖句を唱える、だがそんな中で音が聞こえてきた。
それは戦闘音で今まさに誰かが生きているという確固たるものだった。
「あっちだ!」
剣を手にしてガルマを走らせる、通りを抜けて広場に出るとそこには巨大なナメクジの様な魔物が奇怪な声を上げながら上を向いており…。
視線の先には岩の鎧を纏った戦士が手にした巨大な片刃の剣を振り下ろそうとしていた。
「ぬんっ!!」
振り下ろされた刃が魔物の頭に吸い込まれる様に入っていく、粘液で覆われた体を縦に裂いていき地面に触れると轟音と共に地面が割れた。
魔物は粘液と体液を散らしながら左右に分かれながら倒れる、土煙が収まりその光景を見ていると鬼を想起させる兜の眼がこちらを捉えた…。