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96:出発前


情報を聞き出してからはすぐに全員と共有して話し合った、そして明日にはブレイジア領へと向かう事が決まった。


防壁の上で日が沈んで月が昇った夜空を見上げる、そしてこの国に戻ってからの事を考えていた。


「何を考えているんだい?」


隣に登ってきた兄貴が話しかけてくる、少しだけ黙っていたがポツリと溢した。


「なあ…親父達はどうしてる?」


「…父上かい?」


俺の問いに兄貴は首を傾げるがすぐに頷いて答えてくれた。


「父上は私の代わりに領主代行をしているよ、幸いというべきかグラントス領は被害が少なかったけど油断は出来ないから領の防衛を続けてるよ」


「…そうか」


「後は使用人達は半分くらいは辞めたよ、ラティナみたいに降格を受け入れた者もいるけどね」


「ラティナか…」


名前を呟きながら謝って兄貴を助けて欲しいと頭を下げてきた姿を思い出す…思い出しても胸がすく思いはしなかった。


「…まだ、許せないかい?」


「…正直よく分からないな」


なんとなく俺の考えてる事を察してくれたのだろう兄貴にそう答える、兄貴には俺がラティナと騎士が救援を依頼してきたのは伝えてあった。


「…父上はセルクが出ていってからずっと後悔しているよ、あれからずっと引退したりせずに働き続けてる…それでもセルクが活躍した話をすると嬉しがってるんだ」


「…そっか」


「この件が片付いたら…話してみないかい?」


…兄貴も俺と親父を思っての事なのだろう、それは分かっているし俺もそうしたいが…。


「何を…話せば良いんだ?」


「セルク…」


「親父は俺を見た事なんて一度もなかった、俺だって…いつの間にか親父を理解してくれない敵としか見なくなってた」


見てくれなかった怒りはまだある、だが例えこの怒りをぶつけて謝られたのだとしても気持ちが晴れる事はないだろう。


本当にして欲しかった事は過去の事で今の俺には親父達にして欲しい事はなくなってしまっている、何をされたとしても今更なんだという思いの方が強い。


「俺と親父には…もう繋がりがないんだ」


「…」


「俺がこの国に来たのは兄貴を助けるのと、あの時つけられなかったけじめをつける為だ」


「けじめ…か」


「これからも兄貴の力にはなるさ、だけど兄貴以外で俺がこの国で大切だと思えるものも…思ってくれる人もいないんだよ」


これはアリア達にだって言えない事だ、兄貴だからこそ…家族だからこそ吐ける弱音だった。


「なんで親父は…母さんは俺を生んだんだろうな」


「セルク、それは…」


「…悪い、少し感傷的になった」


無意識で呟いた言葉に思わず後悔する、俺を生んで死んだ母さんはとても善良な人だったとか人伝に聞いた事しか知らなかった。


母さんからもらったのはこの体だけで、ルスクディーテから教えられたこの国では評価されようのない体質は死ぬきっかけになった俺を呪ってのもの…そんな考えが過りすらした。


「大丈夫だ、今はアリアやセレナみたいに俺を認めて支えてくれる人達がいるから」


「…本当に国を出て良い縁に恵まれたんだね」


「ああ、だから…」


月明かりで照らされた先にあるブレイジア領の方を見ながら覚悟を固めて言葉にする。


「立ちはだかるなら、俺の大切なものに手を出すなら許さない」


それが俺の努力を認めてくれた者だとしても…。

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