95:尋問
石造りの廊下を歩いて並ぶ牢のひとつの前で止まる、兵士に鍵を開けさせて中に入ると右手を失った男が枷を嵌められて座っていた。
「な…セルク=グラントス!?国を出た筈じゃ」
俺を見て男はそう言葉を放つ、確かこいつは名前は覚えてないが俺を常日頃から兄貴と比較して見下してた一人だった。
「ご苦労だった、後は俺がやるから下がってくれ」
そう言って鍵を受け取り兵士に下がってもらう、あらかじめ用意していた魔石に魔力を流し込むと刻んだ“遮音”の術式が起動した。
「お前等が加担した反乱、知ってる事を全て話せ」
「な、なにを言って…」
男の肩を掴んで引き上げると腹に拳を打ち込む、風魔術で振動が加わった拳は男の内臓を激しく震わせて見た目以上の苦痛を生み出した。
「ごげぇぇぇっ!?」
「知ってる事を全て話せ」
「こ、こんな事して…」
再び拳を打ち込む、胃を激しく揺さぶられた影響か男は込み上げてきたものを我慢できずに吐瀉物を床に撒き散らした。
「知ってる事を全て話せ」
「ま、待っ…」
拳を打ち込む、悲鳴と吐き出す音が混ざった様な汚い声を上げて悶絶する男を片手で押さえつけながら再び問いかける。
「知ってる事を全て話せ」
「ひっ!?は、話す!話すからもうやめ…やめてください!?」
拳を下ろして殺気を放つと男は怯えた表情を浮かべながらも口を動かした。
「お、俺達は商人から水晶をもらっただけなんだ!あれを使うと気持ちが軽くなって楽になるから!」
「反乱に加担した理由は?」
「グレブに言われたんだ!バドル=グラントスが今度こそ俺達を追い詰めるつもりだから先んじて動こうって!あの商人も協力してくれるから勝算はあるって俺達を唆したんだ!」
「商人とは何者だ?」
「く、詳しくは分からない…だがオルシロン伯爵はあの商人をフィフスと呼んでいた」
「…お前等が使っていた武器と魔物達はなんだ?」
押さえつける手の力を強める、指先が男の肩に食い込んでいった。
「うぐぐっ!?あの商人だ!俺達が集まった時に奴が持っていた杖を鳴らしたら俺達が持ってた水晶が姿を変えて…その中には魔物になった奴もいたんだ!」
…話している様子からして嘘は言ってないだろう、続きを促すと男はこちらが何も言わなくとも喋りだした。
「王国軍は主力を奇襲で潰せば王都まで撤退する、そこに続け様に襲撃して生まれた隙を突けばバドル=グラントスを倒せると!あの商人はブレイジア領で襲撃の手駒を用意すると言っていなくなってから会ってない!本当だ!」
「…他には?」
拳を握って分かりやすく風を鳴らすと男は顔をひきつらせて首を横に振る。
「これ以上はない!俺はグレブについていっただけでそれ以上は知らないんだ!」
男の必死な声にこれ以上聞き出せそうにないと判断して手を放す、大した情報は得られなかったが予想通りフィフスがブレイジア領にいるというのが分かっただけ儲けものだろう。
「て、帝国の騎士に成り下がった貴様がこんな事をするなど…許されると思っているのか」
立ち去ろうとすると男はそう呟く、足を止めて見下しながら告げた。
「俺は王国からの救援の依頼を受けて来た、王国からこの事態の鎮圧の為の軍事権も譲渡されている…つまり俺の裁量でお前等反逆者を処刑しても問題ないしならないんだよ」
「なっ…」
「どのみちお前は国家反逆罪で裁かれるだろうが…人として終われるだけありがたく思うんだな」
そう言い残して牢を後にした直後に“遮音”の効果が切れる、牢からは言葉にならない声が響いた…。