94:方針
話し終えて天幕に戻ると兄貴も交えてこれからの事を話す。
「ひとまず大型が複数現れても対処できるだけの防備は整えれた…でもそれだけだ」
俺の言葉に全員が頷く、そして地図を確認しながら続けた。
「相手の襲撃は散発としてるがこれはいつ襲ってくるか分からないという状況にしてこちら側の疲弊を狙ったものだろう、だけどこれを行うには相手の頭もこちらを確認できる位置にいる筈だ」
「親玉は伯爵領ではなく公爵領にいる、という訳だね?」
「ああ、使い魔で情報収集するにせよなんにせよこれだけ的確に襲撃させる事が出来るのは王都と隣接してる公爵領で手勢を増やしてると考えるべきだろう」
オルシロン伯爵領に逃げた者と領民だけではこれまで襲撃してきた魔物の数が釣り合わない、そして魔物が現れるのは現状公爵領からのみという点を考えれば魔物を従えている者は公爵領にいる可能性は極めて高いだろう。
「どちらにせよこのままじゃジリ貧だ、こちらから奴等を倒しに行かなきゃ帝国からの支援も望めないだろう」
「ふむ、しかし攻めるのにどれだけの兵を連れていくのですかな?聖女殿のお陰で負傷者がいなくなったと言っても防衛を考えれば半分でも厳しく思われます」
「兵は連れていきません、俺とアリア、セレナの三人で向かいます」
俺の言葉に兄貴とアリア達以外は驚きの表情を浮かべる、流石に言葉が足らなかった様なので理由を言う事にした。
「ひとつは大軍で行くメリットが薄い、相手は最低でもグルシオ大陸の魔物に匹敵するものばかり…騎士だとしても被害は出ますし俺達も数が多くなれば不測の事態に対応し切れない」
「ならばいっそ連れていかない方が負担がない、という訳ですか」
「ええ、ふたつめに攻めるのは俺達だけで出来ますが王都を守るにはなによりも数がいります、兵士達や騎士達はそちらに割り振りたいのです」
「なるほど…」
「兄貴はこのまま王都を守って欲しい、相手が別の手段で攻めてきたとしても兄貴なら対応できるだろ?」
「ああ、もうあんな失態は見せないよ」
兄貴が力強く頷く、行動方針が決まったので次の話に向かう。
「次に俺達を襲撃している魔物達だが…これを見て欲しい」
そう言って卓の上にグレブの剣と魔物から取り外した水晶を置く、水晶は既に輝きを失っていた。
「俺が見た限りではこの剣と魔物についてる水晶は同じものだ、おそらくこれが人を魔物に変えて操る魔道具なんだろう」
「…我々は自国の者達と殺し合わされていたという訳ですか」
「ああ…だけど全員とはいかないが助けられる可能性はある」
「本当なのですか!?」
俺の言葉に騎士団長は驚愕する、頷きながらもその可能性について話した。
「魔物になった者は無理だが…この武器を手にした者達ならば武器を手放すか破壊すれば正気を取り戻せるかも知れない」
「なんと…しかしどうやって分かったのですかな?」
「昨日捕えた奴は武器を失っても生きていた…目覚め次第、話を聞き出すつもりだが…」
「失礼いたします」
そこまで言ったところで天幕に兵士が入ってくる、兵士は俺の前で跪く。
「捕えていた者が目を覚ましました」