92:再会
「兄貴!?もう大丈夫なのか?」
「ああ、うん…体はもう大丈夫だよ」
天幕に入ってきた兄貴を見て思わず声を掛ける、だが兄貴の表情からなんとなく察して自分の今の立場を思い出す。
「騎士団長、すみませんが二人で話しきてもよろしいでしょうか?」
「問題ありませぬ」
騎士団長が頷くのを確認して天幕を出る、そのまま防壁の外に向かうと兄貴が話し掛けてきた。
「久しぶりだね…今はベルク、と呼んだ方が良いかな?」
「セルクで良い、どっちも俺だし…俺を見てくれていた兄貴ならそう呼んでくれても構わない」
「…ありがとう」
そこから少しだけ口をつぐむ…お互いに話したい事、伝えたい事が多すぎてどれから話せば良いのか迷ってしまったが意を決して口を開いた。
「兄貴…すまなかった」
「え?」
「なにも言わないで、一人で抱え込んで、全部押しつけて逃げてしまって…本当にごめん」
最初に口に出たのは謝罪だった、口にしてしまえば後はすんなりと言葉が出た。
「…謝るのは私の方だよ、セルクなら大丈夫だなんて根拠なく信じてセルクが苦しんでる事に気づけなかった。
父上や周囲を見ていれば気付けた筈なのに…」
「それもある、十五年間この国で生きるのは息苦しかったしあの日の事で心が折れたからだ…でもそれだけじゃないんだ」
あの日から…逃げ出した時からずっと抱えてきたものを俺は吐き出した。
「見捨てられたくなかったんだ…あのまま王国にいて、なにも出来ないままでいたら兄貴も失望して俺を見てくれなくなるんじゃないかって…誰にも見てもらえなくなるなら全部捨ててしまった方が良いって思ったんだ」
「そんな、セルクを見捨てる訳…」
「ああ、今なら兄貴がそんな事しないって分かってる…だけどあの時はそれがどうしようもなく怖かったんだ」
いるだけで迷惑になる、兄貴もいずれ俺をそう感じてしまうのではないかと思うとなによりも怖かった。
「頼って欲しいと思ってた癖に周りを敵だと思い込んで誰かに頼ろうとしなかった、そんな奴が頼ってもらえる訳がないのにな…」
言ってて自分で情けなくなる、結局俺は最後の最後で兄貴を信じられなかったのだから。
「セルク…」
兄貴が声を掛けてくる、今度こそ失望されたかと兄貴は方へ向くと…。
「すまなかった…」
兄貴は俺に頭を下げていた。
「私も同じだよ…セルクの前ではカッコいい兄でいたかった、自慢できる存在でありたかった…そんなプライドに目が眩んでセルクを信頼せず、信頼できる兄になろうとしなかった私にだって落ち度はある」
「兄貴…」
「だからこそ言わせて欲しい、今更だとしても甘えてるのだとしても…ずっと言えなかった事を」
兄貴は顔を上げると俺を真っ直ぐと見て口にした。
「助けて欲しい…こんな頼りない兄だけど力を貸してくれないか?」
…その言葉に俺は拳を突き出す、兄貴も意図を察してくれたのか同じ様に拳を出してぶつけ合った。
「こんな頼りない弟で良ければ、任せてくれ」
その言葉に互いに笑い合う、束の間の時間だが子供の時の様に心から笑い合った…。
さて、どう曇らせるか…。