88:王国の現状
「まずはバドル=グラントスを始めとして我が臣下を救ってくれた事の礼を言わせて欲しい…そして厚かましいのは承知の上だがどうか卿達の力をもう少しだけ貸して貰えないだろうか?」
「…具体的にどこまで助力すれば良いのでしょうか?承諾するかはそれを聞いてからです」
俺がそう答えると戦装束を纏っていない…文官であろう者達の雰囲気がひりついたものになるが意に介さずにいると国王は答える。
「今回の反乱のきっかけは皇帝暗殺を目論んだ組織と関係を持った者達を摘発した事からであった、半数は捕らえ魔道具を押収したまでは良かったが奴等を招いたオルシロン伯爵は魔物の群れを操って近隣を襲撃、現在魔物の群れはブレイジア公爵領から王都へ散発的に襲撃している」
「ブレイジア領は既に侵攻されていると?」
「我々はそう見ている、現在は王国常駐の軍で迎撃してはいるが知っての通りバドルや騎士団長達がいなければ迎撃すら満足に出来ていないのが現状だ」
改めて確認すると思わずため息が出るほど酷い状況だった、防衛にいた騎士と兵士の割合から考えておそらく包囲した時の襲撃で主力の騎士団や兵士がやられたのだろう。
魔物達の強さから考えて兄貴がいなければとうに王都は陥落していてもおかしくはなかった、俺達が間に合ったのは文字通り兄貴が身を粉にしたからと言えるだろう。
…正直この国に対して悪感情が消えてはいない、だがこうして話してみれば国王はまともな人だ。
この国を見捨てたところで咎められる事はないだろうがそれでは兄貴や国王の様なまともな人達のこれまでの尽力が無駄になる…そう考えれば自ずと答えは出た。
「分かりました、力を貸しましょう」
「…っ!感謝する」
「但し、条件がふたつ」
そう言って指を二本立てる、すかさずその条件を話した。
「ひとつは状況が解決するまでの指揮権の全譲渡、つまり今から俺達の指示には必ず従う事…ふたつは帝国に渡す報酬を更に半分追加してもらいます」
「な、ふざけるな!そんなの払える訳…」
文官の一人が立ち上がろうとした瞬間、国王が放った魔術が文官をふき飛ばす。
「ベルク卿は儂と話しているのだ、儂が決めて儂が責任を取る…だからいらぬ口出しをするな」
壁にぶつかって崩れ落ちる様に倒れた文官を冷たい眼で見ながら宣告する、続こうとしていた文官達は一斉に顔を俯かせた。
「…あの報酬は王家の財産から出してるものですね?」
「うむ、出せる限りのものを出したつもりのものであったが…」
「ならば各貴族が私有している財産を徴収してください、それに今回の反乱を鎮圧した時に反乱に加わった貴族を取り潰して押収する財産も合わせれば払える筈です」
「…なるほど」
国王は顎髭を撫でながら思案する、だが少しして顔を上げると毅然と答えた。
「承知した、事態が解決するまではベルク卿に指揮権を譲渡…並びに此度の事態が解決した暁には報酬を追加して払う事を約束しよう」
「分かりました、ではまず…」
国王の答えに帝国の礼で応じる、そして騎士団長などの防衛の指揮官達を集めて動き始めた…。