87:襲撃していたのは
グレブを始末し終えて奴が持っていた剣を拾う、鍔にある水晶は王国に現れた魔物の胸に埋まっていたものと同じものの様だ。
防壁のところまで戻るとアリア達と兵士達が集まっており、セレナが兄貴の治療を終えたところだった。
「兄貴は大丈夫か?」
「体の方は大丈夫ですが…これまでの無理と魔力の枯渇が重なってかなり疲労しています、丸一日は安静にしてた方が良いでしょう」
「分かった、おい」
成り行きを見ていた兵士達に声を掛けるとビクリと体を震わせる、それに構わず命令した。
「なにをしている?早く兄貴を寝かせられる場所に運べ!手が空いた奴等は周辺の壊れた武具の回収と防壁の修繕に他に敵がいないか斥候に出ろ!」
「「「は、はい!」」」
「それと、お前」
さっきまで俺の戦いを見ていたからか兵士達は返事と同時に動き出す、その内の一人を呼び止めるとルミナスにしたためてもらった書状を渡す。
「お前は国王に救援の報告とこの防衛線の他の責任者を呼び出してこい」
「え?し、しかし…」
「兄貴が倒れたって言えば来るだろ…それとも本当に全部兄貴一人に押しつけてたのかお前等?」
「は、はいぃ!直ちに行います!」
少しだけ苛立ちが出てしまい兵士が敬礼をして回れ右して走っていく、悪い事をしたかも知れないが仕事をしてくれるなら良いだろう。
「…悪い、少し苛立ってた」
「仕方ないわ、予想以上に状況が悪くなってるもの」
俺が謝るとアリアはため息をつきながら後ろを見る、そこにはアリアが倒した異形の武器を持つ者と魔物達がいた。
「うぐ…」
その中で一人だけ生きている者がいた、武器を持っていた右手は手首から先が焼け焦げて失くなっているのを見るとアリアの焔から奇跡的に外れていたのだろう。
「セレナ、奴に最低限の治療をしてくれないか?」
「はい」
生存者を縛り上げてからセレナに死なない程度に治療してもらう、そしてすぐ横で倒れている魔物達の胸に輝く水晶に触れた。
「アリア、気付いてるか」
俺の問いにアリアは頷いて答えた。
「死んでるのは間違いない、なのにこの魔物達は魔石にならないわ」
魔物は倒されれば魔石になる、それはダンジョンでなくとも変わらない…なのにこの魔物達はこうして魔石にならずにいる事とこれまで戦ってきたフルドとバグラスの事を合わせれば…。
「ベルク、やっぱり…」
「ああ、おそらくこの魔物達はフィフスの魔道具で変異した人間だ」
この辺りで既にかなりの数の魔物が襲撃してきていた、だとすれば魔物が集中しているというブレイジア領は更に多くの人達が魔物達にされている可能性がある。
「兄貴が回復したら真っ直ぐオルシロン伯爵領に向かうつもりだったが…そうもいかなそうだな」
顔を上げれば空は既に日が沈もうとしている、これからこの国を覆う影の深さを暗示するかの様に…。
―――――
俺達が来てから防衛線を襲撃してきた魔物は一斉に鳴りを潜めた、夜になる前に王から話がしたいと迎えの馬車と共に返事を渡されたので見張りと報告を徹底する様に言い渡してからアリア達と一緒に王城に向かった。
騎士に着いていくと玉座の間に通される、中に入ると国王と騎士団長を始めとした貴族達が揃っていた。
騎士団長や幾人かは戦装束を纏っている辺り彼等が防衛の指揮を取っているのだろう。
「良く来てくれた、黒嵐騎士ベルク卿」
貴族や兵士達が俺を様々な目で見てくる中で国王はそう声を掛けた…。