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82:捨てられなかったもの


「ベルガ王国がそのような状況に!?」


報告を聞いたルミナスを始めとしたセレナとメルティナは驚愕の表情を浮かべる、俺は書状を卓上に置いた。


「救援に対する報酬の一覧です、要請を受けるには充分なものだと思います」


「…行くつもりなのですね、しかしその敵勢力がこちらに来る可能性も」


「それはないでしょう」


ルミナスの挙げた可能性を否定する、順を追ってその根拠を話した。


「この反乱の裏にはフィフスが動いてる、奴等は教国が壊滅状態だという事を分かっているからこそ帝国と隣接するブレイジア領に魔物達を集中させている…彼等がここまで来れたのは帝国と離れた教国に来たからというのもあるでしょう」


教国に援軍を出す余力がないのは崩壊させた奴等が一番理解している、ラティナ達が生きて着けたのは無警戒な教国を目指したからこそ魔物達と鉢合わせずに済んだのだろう。


「それに救援が届いたとしても間に合う可能性は低いでしょう、おそらく帝国の救援が来ても国境で迎え撃つ為に奴等はブレイジア領に魔物を集めている」


「奴等の主力が待ち受けている、という訳ですか」


「だからこそ、こちらからなら邪魔はされない」


俺の言葉にルミナス達は注目する、今から言う事は帝国の騎士としてあるまじきものだろう。


「俺一人ならガルマでいち早く王国に向かえますし魔物が出たとしても切り抜けられる、現状救援に間に合う可能性があるのは俺だけです」


「陛下の判断を仰がずに行くつもりですか?ベルク殿は今は責務はなくとも帝国の騎士なのですよ」


「ならば称号を返上しても構いません」


「な…」


俺の言葉にルミナスは驚愕する、俺の眼から本気を感じ取ったのか少しだけ沈黙してから口を開いた。


「…ベルク殿が王国で受けた扱いは窺っています、貴方ならば帝国で語り続けられる存在になれるでしょう…その未来を捨ててまで王国を助けるのですか?」


「王国がどうなろうがどうでもいい、だけど…」


我ながら中途半端だと内心自嘲する。

貴族の子としての身分を、王国の人間だったという過去も全てを捨ててここまで来たつもりだった、なのに…。


「俺を見捨てなかった兄貴だけは見捨てられない」


家族の暖かさを教えてくれた兄貴を見捨てる事は出来ないのだから…。


「ああ、私も行くつもりだからよろしくね」


「二人が行くなら私も行きます、戦なら治癒の力は役に立つでしょうから」


「アリア様!?それにセレナ様まで!?」


「言っとくけどベルクが称号を返したとしてもついてくから」


「私もです」


「…分かりました」


ルミナスはそう言うと呼び鈴を鳴らす、すると配下の騎士が姿を現した。


「至急、私の馬車に食糧とポーションといった必需品を積んで正門に回しなさい」


「はっ!」


騎士が部屋を出ていくのを見届けるとルミナスに向き直る、合わせるようにルミナスも俺へと向き直った。


「私の馬車はフィルネリア様が製作した特注品です、貴方の使役する軍馬の全力にも耐えられるでしょう」


「…ありがとうございます」


「陛下への報告は私がしておきます、貴方の言う通りならばここからなら伝書魔術が潰される可能性は低いでしょう」


ルミナスは俺とアリアにどこか眩しいものを見る様な表情を向けるもすぐに直した。


「面倒な事や後処理は私達がやります、ですから…思うがままにやってください」


俺は頭を下げて部屋を後にした…。

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