79:王国から来た者
救援が来てから翌日、引き継いだといっても仕事がなくなる訳ではなくアリアと騎士達からの見回り等の報告を受けていた。
「ベルク様、それともうひとつご報告が…」
「どうした?」
「昨日の夜なのですが旅装に身を包んだ四人が訪れました、ひどく衰弱した者や気を失った者もいましたので現在は医療班に看てもらいながら休ませています」
「…旅人か?それとも途中で魔物に襲われた巡礼者か」
「意識を取り戻したのでこれから彼等の聴取を行う予定なのですが、気を失う前に口走った事が気になりましたので報告をしようかと」
「なんて言ったんだ?」
「それが…」
騎士は一瞬だけ言い淀むがすぐに答えた。
「我々はベルガ王国のグラントス家のものだと…」
伝えられた言葉に心がざわついた…。
―――――
騎士から聞くと聴取はそのまま休ませてる一室でやるとの事でそちらに向かう、するとアリアが横を歩きながら話し掛けてきた。
「私もいていいの?」
「…一人だと感情を抑えれるか分からない、すまないが俺が手を出しそうになったら止めてくれ」
「…分かったわ」
部屋の前に着くと一瞬だけ躊躇うがすぐにドアを開けて中へと入る。
部屋の中には四枚の毛布が敷かれており、その上に一人ずつ座った状態で三人の男と一人の女がいた。
彼等を看ていた神官が入ってきた俺に会釈するのを見て四人が顔を上げると驚いた表情を浮かべた。
…男三人には見覚えはないが横に置かれた装備からして騎士だろう、鎧には杖と鷲はベルガ王国の紋章とグラントス家の紋章である翼と盾が彫られている。
そして…。
「セルク…様」
旅装に身を包んでこそいるがそれでも分かってしまった、俺が王国を出るまで十年以上もメイドと世話役をやっていたのだから。
「ラティナか…」
二年ぶりに会った彼女は随分とやつれている様に見えた、それはここに辿り着くまでの間になったものには見えない。
(こんなに弱々しい奴だったか…?)
最後に見た時と随分変わったラティナに対して浮かぶのは怒りや不愉快ではなく戸惑いだった、今の彼女は怒られるのを待つ子供の様に瞳は不安に揺れていた。
「セルク様…いえ、ベルク様」
すると騎士の一人が居住まいを正してこちらに向き直る、ラティナがまともに話せないと判断したのだろう。
「私は王国騎士団のハリスと申します、二年前にバドル様の直属の騎士として配属された者です」
「…その直属の騎士とメイドが何故ここにいる?」
「はい、恥知らずなのは承知の上でベルク様にお力を貸して頂く為に参りました」
すると騎士達は一斉に頭を下げる、ラティナも同じく平伏す様に頭を下げた。
「どうか…どうか力をお貸しください、このままでは王国が…バドル様の身が危ういのです」
「兄貴が危うい…どういう事だ?」
騎士達の言葉に思わず疑問が浮かぶ、あの兄貴が危機的な状況にいるなど想像がつかなかった。
「王国は今ふたつの勢力に分かれています、バドル様率いる王家の軍と魔物を率いて反乱を起こした貴族達による内乱が起こっているのです…」
伝えられたのは新たな厄介事だった…。