71:これまでの清算
教国の生き残った上層部を黙らせた俺は簡潔に教国の現状を説明した。
副団長だったバグラスによる暴動とガナードが殺されゼノスタンドが奪われた事、居住区は壊滅しており生存者と街としての機能は絶望的な状況である事、帝国からの支援が着くのは早くても二十日以上掛かる事等を話すとようやく事態を把握したのか青い顔をしていた。
「セレナはこの状況をいち早く察して俺達にこの国の保護を願い出たぞ?生き残った民やお前達の事を考えて率先して動いていた…だというのにお前達は呼ばれるまで一体何をしていた?」
「そ、それは…」
「いの一番にここに逃げ込んでいたんだろ?教国の上層部が揃いも揃って無事なのは民を助けもせず自分達だけで逃げてきて状況が落ち着くまでじっとしてたってところか」
俺の予想にほとんどの者が俯くか目を逸らす、半ば当てずっぽうだったのだが図星の様だった。
「本来ならセレナだけじゃなく上位の職に就いてるお前達もこういった状況で率先して動く責任と立場にある筈なんだがな、それを放棄したお前達にこちらの決定を拒否する権利があると思ってるのか?」
「「「…」」」
「そもそもお前達に先はないがな」
そう言ってセレナから受け取っていた汚職の証拠を取り出す、そこには教皇達の行いに関わった者の名前も載っていた。
「これは教皇達がやっていた汚職の証拠だ、当然お前達がこれまでやってきた事も押さえてある」
それを聞いた奴等の顔色が更に悪くなる、もはや青どころか白くなりそうな様子だった。
「お前達がやってきた所業に加えて今回の責任を放棄した行動…非常時の裁定権を持つ俺の判断でお前達を状況解決の不穏分子として処刑しても構わないんだぞ?」
「お、お願いします!それだけはどうかご容赦を!?」
「き、教皇には逆らえなかったのです!何とぞ慈悲を!慈悲をください!」
身に覚えがあるのであろう者達が頭を下げて懇願してくる、命が掛かっているとはいえここまでプライドを捨てられるものなのか…。
「選択肢はふたつだ、自らの罪を白日の下に晒して処刑されるか俺の指示に従って働き恩赦に期待するか…今ここで選べ」
その言葉に全員が指示に従う事を願い出る、それを確認した俺は通告した。
「ではこれよりお前達に与えられた職と権限は剥奪、所有する財産は全て没収だ」
「「「な!?」」」
「今からお前達はこの状況解決の為の労働力だ、従わないというならお前達の所業を民に公開した上で解放する…だが俺はやる事が多いから治安にまでは手が回らないかもな」
こいつらがやってきた事が知れれば教皇達がいない今の状況では民達はこいつらのせいでこんな事になったと考える者も出るだろう。
民によって私刑されるのを想像した事で完全に心が折れたのだろう、全員が意気消沈としながら従った…。
―――――
「落としどころとしてはあんなところか?」
「妥当じゃないかな?今は人手はあって困るものじゃないし…だけどあの人達大人しく従うかな?逃げ出そうとする人もいるんじゃない?」
「それならそれで良い」
アリアが浮かべた疑問は当然のものだがそれも考えての判断だ。
「ハインルベリエは街道を通っても宿があるところまで歩いていける距離じゃない、だとすると野宿するしかないがこの辺りは魔物もいるし肉食の獣だって出る…護衛も知識もなしに逃げれば野垂れ死ぬだけだ」
「なるほど、わざわざ処刑しなくたって良い訳ね」
「それにこの国じゃ助かる為に仕方なく同調していたというのも否定はできない、なら一度だけやり直す機会を与えても良いだろ」
「そこまで考えての事だったのですね」
俺の考えを聞いたセレナが俺へと向き直ると頭を下げてくる。
「二人とも本当にありがとう、私だけじゃここまで綺麗にまとめられなかったわ」
「…まあ乗り掛かった船ってやつだ」
「あはは、気にしないでだって」
俺の返答にアリアが捕捉する様に答える、どことなく照れ臭くなって頭を掻きながら話題を逸らした。
「ひとまず次だ、帝国から救援が来るまで俺達で凌ぐぞ」
俺の言葉に二人が頷く、そしてすぐさま動き始めた…。
五日後、目が覚めると横には裸の皇女と聖女が同じベッドで寝ていた。