70:今やるべきは
防壁の門を通って大聖堂がある区画に向かう、防壁の結界によって守られていた区画内には避難できた住民や僧侶達、そして騎士達が暗い顔で座っており中には祈りを捧げている者もいた。
大聖堂へと入ると中は怪我をした者と神父や医者達が治療を行っていた。
その中には重傷の者を癒していくセレナが居り、俺の姿に気付くとこちらに駆け寄ってきた。
「ベルクさん!お怪我は…」
「問題ない、奴等もひとまずはいなくなった…アリアは?」
「治療をして休ませています、もうすぐ起きてくるとは思いますが…」
「今起きたわ」
話しているとアリアが姿を見せる、少しだけ疲労の色が浮かんではいるが問題はなさそうだった。
三人で状況を話し合う、オルディオ…バグラスによってガナードが殺されてゼノスタンドを奪われた事、ロウドとの戦いによって居住区は壊滅した事を伝えるとセレナは沈痛な面持ちで俯いた。
「すまない、力が及ばなかった…」
「いえ、貴方とアリアがいなければ彼等によって教国は滅ぼされていました…私や今ここにいる人達が無事なのは貴方達のお陰です。
だから、どうか謝らないでください」
セレナの話を聞くと教皇を含めた上層部の死体が見つかったそうだ、骨だけになっていたが身に付けていた服や装飾品から判別できたそうだ。
「だとすると今この国には指導者がいない状態…いや、立場から考えれば君がそうなるのか」
「はい、ですが…」
「この国こういった状況の対策してなかったみたい」
セレナが言い淀んだ事をアリアが話す、その内容は確かに頭を抱えたくなるものだった。
色々と考えなきゃならない事は多いがひとまずやらなきゃならないのはこの状況をなんとかする事だ。
「アリア、ヴィクトリアに伝書魔術で人と物資を送る様に伝えてくれ、費用は当てがあるともな」
「分かったわ、それと今話した事も伝えておくわ」
アリアはすぐに身を翻して伝書の用意をしに行く、それを見送ってセレナに向き直った。
「セレナ、君じゃないと治せない者はまだいるのか?」
「いえ、先程の方で私が担当する治療は終わっています」
「ならセレナ以外の正教の上位の職に就いてる者と騎士達を呼んでくれ、これからの事を話したい」
そう言って俺はセレナに話したい事を相談した。
―――――
少しして大聖堂の一室に俺とアリアにセレナ、神父や騎士達が集まる。
俺はセレナとアリアを後ろに控えさせながら彼等の前に立つと開口一番で宣言した。
「俺はヴィクトリア皇帝陛下より黒嵐騎士の称号を賜ったベルクという、今よりハインルベリエは帝国の保護下に置かせてもらう故にこれからはこちらの指示に従ってもらう」
俺の言葉に唖然としたのも束の間、騎士の一人が立ち上がって異論を唱えた。
「ふざけるな!それはあまりにも横暴というものであろう!」
「そ、そうだ!さてはこの機に乗じてこの国を乗っ取る魂胆か!?」
一人を皮切りに全員が騒ぎ立てる、こうなるだろうと分かってはいたから事前に決めていた通りに行く事にした。
「黙れ」
剣で床を突きながら殺気と共に魔力を放出する、耳障りな音を吐き出していた者達は放った殺気に威圧されて口を閉じ、中にはあからさまに怯んでいる者もいた。
「自分達が置かれてる状況を理解していない様だから説明してやる、あらかじめ言っておくがこれは議論ではないから俺の質問以外で口を挟むな…良いな?」
俺の言葉に反対する者はいなかった…。