67:唯一の白金
視界に入った光景にすぐに軍装を展開する、アリアを掴み上げる男は即座にアリアを手放して背後からの一撃を避ける。
すぐさま返す刃で斬り上げる、更に後ろへと跳ばれて剣先が男の首下を掠めるだけだった。
(…あれは!?)
掠めた事で男が首に下げていたタグが露になる、目を見開くもすぐさまアリアを抱えて下がった。
セレナのところまで下がる、男は僅かに斬れた襟に触れながらこちらを見た。
「なるほど、全ては必殺の一撃で不意を突くのではなく貴様が来るまでの時間稼ぎか…その年の頃なら己の弱さを認められず見栄を守ろうとするものだがな」
男はアリアに感心する様に呟く、俺はアリアとセレナをガルマに乗せて頼んだ。
「アリアを連れて大聖堂へ行け、あそこはまだ防壁が機能している筈だ」
「ベルクさんは…」
「…二人を守りながら周囲を気にしながら戦える相手じゃない、行け」
ガルマに指示を出して二人を行かせる、再び向き直ると男は待ちくたびれたとでも言う様に剣を向けてきた。
「俺だけ名を知るのは不公平か、俺はロウドだ」
その名を聞いて黒剣を握る力が強まる、それだけ目の前にいる男が信じられない…信じたくなかった。
「…アンタ、本当にロウド=ソリタスなのか?」
「ほう、俺を知っているのか?随分と昔の事が異大陸にまで伝わっていたのか」
その答えを聞いても疑いたくなる、だがただ立っているだけで感じられる威圧感と圧倒的な力、そして首下に下がる白金のタグがこの男は本物なのだと否応なく示していた。
「なんでだ…」
抱いていた感情が溢れ出る、押さえつける事など到底出来なかった。
「最強の冒険者と言われたアンタが!なんで生きてて…こんな事をしている!?」
目の前にいるのは自分が冒険者に憧れるきっかけとなった男なのだから…。
―――――
かつて冒険者の最高位は黄金級までであり、現在でも確認される最高位は黄金級である。
だがその更に上の白金級という階級がとある理由で作られた。
その理由とはその冒険者が他の冒険者よりも圧倒的に、比較すらできないほどの功績を残したからである。
その男の功績を、偉業を讃える為だけに作られた等級故に白金級は事実上ないものとして扱われている。
その男の名はロウド=ソリタス、かつて魔大陸のダンジョンをたった一人で踏破しグランクルズが生まれる礎を作り出した伝説の冒険者である。
―――――
「何故生きている…か、確かに俺が冒険者として生きてた時からはもう数百年は経っている様だからな」
ロウドは感慨深いといった表情を浮かべるがすぐにどうでも良いとでも言う様に吐き捨てた。
「だがそれがどうした?俺が今こうして貴様と相対している事実は変わらん、貴様が戦わんと言うならば貴様とあの娘達が持っているレアドロップを力ずくで奪わせてもらう」
ロウドの淀みない言葉に歯を噛み締める、目の前の男が本物であれ偽物であれ戦わなければならない事だけは確かだった。
地面を踏み砕いて距離を詰める、そして黒剣をロウドに振り下ろし…。
「竜装展開、生命の到達点」
ロウドの全身を白亜の光が包み込んだ…。