65:格差(アリアside)
時は少し遡り…。
アリアとセレナは魔物に寄生されて暴れる者達の鎮圧と無事な者達の保護を行っていた。
「はあああっ!!」
暴れる者達の武器を破壊しながら街の水路へと落とす、水路はそれなりの深さがあるので今の状態なら易々と上がってはこれない筈。
「皆さん、大聖堂に向かってください!騎士の方々は住民の護衛と先導を!」
セレナは水の結界で無事な人々を守りながら指示を出す、聖女としての知名度や信頼があるお陰か住民や騎士達は素直に従って大聖堂へと避難していった。
「一体どうなってるの…?」
西門まであと少しというところでこの騒ぎだ、放っておく訳にもいかず暴れ回る人達を鎮圧しながら住民達を避難させていた。
セレナが結界で一時的な安全圏を作る事で混乱から回復した騎士達も鎮圧や住民の避難に加わった事でこの一帯はもう大丈夫だろう。
ただここ以外にも暴れ出した人達がいるらしくまだ遠くから争う音が聞こえてくる、もはや逃げるかどうかの状況ではなくなってきていた。
「ひとまずベルクと合流して…」
「…っ!?アリア!」
セレナが叫ぶと同時に防壁の外から光の柱が上がる、光が防壁へと触れると防壁に亀裂が入っていきその一部分だけ滝の様に崩れてしまった。
「そんな…この防壁が崩れるなんて」
セレナが呆然としながら呟くが私も同じ気持ちだった、ハインルベリエの防壁の堅固さは私も耳にした事がある。
少なくともこんな風に壊された事なんて歴史上ではなかった筈だ。
土煙が舞い上がった崩れた箇所から足音が聞こえる、鉄靴の様な音を響かせながら瓦礫の上を悠々と歩いてきた男を見た瞬間ぞわりと鳥肌が立った。
男は冒険者に見えた、黒いコートに左腕にだけ肩当てと手甲をしており金属で補強されたブーツといった剣士の出で立ちをした白髪の男だった。
ただ右手に持った淡く輝く白亜の剣と微塵の隙も感じられない佇まいが背筋に冷たいものを走らせる…。
格が違う、目の前の男に感じたのはまさしくこれだった。
「…ほう、来て早々ふたつも見つかるとは俺も運が良い」
男は私達を見て呟く、ゆっくりとこちらを向きながら手を向けた。
「そこの娘達、お前達が持っている剣と杖を渡してもらうぞ」
男はそう言って値踏みする様な眼を向けてくる、怯んでいる場合じゃないと構えるとルスクディーテが語り掛けてきた。
(アリア、今すぐ逃げよ!)
(ルスクディーテ!?)
(我を置いていけ!あれは貴様の姉より強いぞ!!)
ルスクディーテの伝えてきた事に目を見開く、目の前の男がヴィクトリア姉様よりも強いと改めて言われた事で自分の感覚は間違ってなかったと確信できた。
(…ルスクディーテはどうするの?)
(時間を稼ぐ、この辺りは無事では済まぬがお主達が逃げるくらいの猶予は作れる筈だ)
(なら駄目、私は貴方を手放す気なんかないから…それより)
そうして自分の案をルスクディーテに伝える、相手の様子や印象から考えた穴だらけの方法だがやる価値はある。
(…分の悪い賭けだな)
(だけど上手くいけばどっちも助かるわ)
(やれやれ、お転婆な契約者だ…)
「…セレナ、私の後ろにいて」
ルスクディーテは嘆息しながらも乗ってくれた、私は男の前に立って構えた。
「…彼我の差が分からぬという訳ではなさそうだがそれでも挑むか、良いだろう」
男はそう言うと棒立ちのまま手招きする。
「来るが良い、手解きしてやろう」
ルスクディーテに炎を纏わせて私は飛び掛かった…。