64:白亜の光
ハインルベリエの防壁はそれ自体が巨大な魔道具である。
構築された防壁が術式として成立しており街全体を覆う様に結界が構築される事によって門以外からの出入りは不可能となっている。
教国が今日までその権勢を維持できていた理由のひとつは首都であるハインルベリエの結界と兵糧攻めが通用しない事による難攻不落の要塞としての機能も有していたからである。
「神が造った防壁…か」
その男は純白の防壁を見上げながらそう呟く、周囲には一太刀で斬り捨てられた衛兵達の亡骸が転がっていた。
「なら、試してみるか…」
男は白亜の剣を掲げる、剣には徐々に力が集約していき、やがて剣から周囲の大気を揺るがすほどの力が光となって溢れ出た。
それは防壁の全てを拒絶する様な純白ではない、全てを呑み込む圧倒的な力の発露である白亜の光が防壁へと振り下ろされた。
その日、ハインルベリエの難攻不落の伝説は終わりを迎えた…。
―――――
「なんだあれは…」
ハインルベリエの防壁が崩れる光景を目の当たりにして思わず呟く、それだけ予想外の事だったがそれはバグラスも同じだった。
「まさか奴を寄越したのか!?フィフスめ、なにを考えている!?」
フィフス?それにこの態度からしてあれに関してはバグラスはなにも知らされていないのか?
「おい、あれはなんだ?」
「…仕方あるまい、最低限の目的は果たせた。
最期を見届けられはせんが巻き込まれる訳にはいかん」
バグラスはそう呟くと奴に向けて下からなにかが飛来する、バグラスが手にしたそれはゼノスタンドだった。
(しまった!)
下を見ると幾多もの剣で貫かれたガナードの事切れた姿と投擲した体勢の騎士がいた、バグラスに目をやると既に見上げるほど高く上昇していた。
「帝国の騎士、なぜお前がグラントの剣を持っているかは分からぬが今はそんな事は言ってられん。
…もしお前とまた会ったならば、その時こそ決着をつけてやる」
「待て!」
制止も虚しくそう言い残してバグラスは飛び去る、追いかけようにも奴が生み出した虫の魔物を斬り落としてる間に飛び去さられて追いつくのは不可能だった。
「…クソ!」
バグラスの追跡を諦めて崩された防壁の方へと向き直る、あれだけ憎悪を撒き散らしていたのに即座に離脱を判断したのとあの物言いからしてあそこには奴以上の厄介な存在がいるのだろう。
「ガルマ!」
屋根から跳躍すると同時に漆黒の軍馬を呼び出して騎乗する、ガルマは建物の上を駆けて跳躍しながら俺が示した方向に向かった時だった。
防壁付近で紅蓮の火柱が昇る、火柱は倒れる様に傾いた直後に消え去った。
「あれは、アリアの…!」
アリアが帝国を出発する前から鍛練して教国に到着する直前で形にした展開、だが消耗の激しさ故に最後の切り札として用いると決めたものだった。
それを使ったという事は…。
「ガルマ!最短距離を全速力で行くぞ!!」
俺の指示にガルマは嘶きを上げて答える、そして屋根を砕きながら火柱が昇った場所へと向かった…。