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63:かつての友


「顔を変えたとは言え分からないまま死なれるのは癪だな」


オルディオと呼ばれた怪人はそう言うと端から見ても分かるほどの憎悪を込めた眼でガナードを睨んだ。


「俺はバグラス=ベルード、お前が騎士団総出で殺したグラントの分隊の一人だ!」


「っ!?馬鹿な…貴様は追跡の際に崖から落ちて死んだと…」


「生きてたのさ…そして力を手にしてずっと待っていた!お前等を確実に殺せるこの時をなぁ!!」


槍から不穏な鼓動が響く、するとガナードの貫かれた腹から幾多の虫が出てきた。


「あの日の事は一度も忘れられなかった…俺達を逃がす為にお前等を説得しに行ったグラントを囲んでなぶり殺しにした光景を!」


「ぐっ!?がっ!あぁああっ!?」


「剣を抜かなかったグラントを魔術で刻んで!矢を射掛けて!斬り捨てたよなぁ!そして俺達を裏切り者として処分して貶めてくれたよなぁ!!」


バグラスはガナードを貫いたまま槍を持ち上げて投げる、壁へと磔となったガナードにバグラスは顔を鷲掴みにして叩きつけた。


「あの老害共の様に虫に喰わせてやろうと思ったが…やはりお前はこの手で!」


「…っ!」


鋭い鉤爪がついた手をガナードに突き立てようとしたところを黒剣で斬り掛かる。


バグラスは槍を引き抜きながら避けると鉤爪を俺に向けて振るってくる、黒剣で受け止めると左手に手甲を纏って腹を殴りつける。


「ぐっ!」


(…硬い!)


殴られながらもバグラスの背中から巨大な百足が飛び出して牙を鳴らしながら襲ってくる。


跳び退いて避けるとバグラスの背中から二匹の百足が体をくねらせながら迫ってくる、二本の黒剣を展開して百足の頭を斬り落とした。


「邪魔をするな帝国の騎士!関係のない者が割って入るんじゃない!」


「…関係がない、か」


「それともそこの男を、この国を救おうとでも言うのか!?この腐敗した救いようのない…闇しかない国を救おうとでもほざくつもりか!!?」


「…別に俺はこの国がどうなろうが知った事じゃない、だが…」


黒剣を一騎討ちの礼を取って構える、かつてグラントと呼ばれた騎士が振るっていた黒剣を。


「こいつが…アンタを止めてくれって言ってんだ」


一息で間を詰めて黒剣を振り下ろす、バグラスは槍で受け止めるが俺の振るう黒剣を見て目を見開いた。


「何故だ、何故お前がグラントの剣を持っている!?」


「…託されたからだ」


「っ!?…訳の分からぬ事を!」


バグラスは叫びながら刺突を繰り出す、繰り出される突きはまるで蜂の群れが襲い掛かってきたかと錯覚するほどの早く鋭い突きを避ける度に神経が擦りきれる様な感覚を覚えた。


「っ!?」


続けて繰り出される槍を黒剣でいなした瞬間、槍の柄が曲がって歪な穂先が顔に迫る。


手甲を展開しながら穂先を寸前で掴み取る、だが槍が震えたのを感じ取ると黒剣で槍を弾き上げながら転がる様に跳び退いた。


直後に穂先から何かが射出される、それは壁に当たると壁が溶けて何かの卵の様なものが脈打っていた。


「ちぃっ!」


バグラスは背の羽根を震わせて浮かび上がる、そして凄まじい速度で急降下して迫ってきた。


「ぐっ!?」


盾を展開して突進を受ける、怪物になったフルドの一撃に匹敵する威力を転がりながら受け流すが体勢を整えた時には再びバグラスは上昇して突進してきた。


「不愉快だ!死ね!」


バグラスの突進を真正面から受けてふき飛ばされる、だが纏った風を操作して空中で体勢を整えると上昇する途中のバグラスに向けて建物の壁を蹴り上がって迫る。


「なにっ!?」


空中でバグラスに黒剣を振り下ろすも槍で受け止められる、即座にバグラスの腹を蹴って建物の屋根の上に着地すると睨み合う状態となった。


(強い…)


槍の技倆に加えて自身の能力を完全に使いこなしている、こちらの動きに対する的確な対処は踏んできた場数を如実に物語っていた。


完全なるフルドの上位互換、それがバグラスに対する印象だった。


(…使うしかないか)


睨み合ったまま軍装を展開しようとした時…。


「「っ!?」」


光が落ちた。


純白の防壁に落ちた光は吸い込まれる様に消えていくと防壁はひび割れていき、その一角が崩れていった…。

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