62:果実を喰らう虫(復讐者side)
時はベルクとガナードの戦っている頃…。
未だに大聖堂で聞くに耐えない言葉を吐き出している教皇達の部屋の扉が開け放たれた。
「む?貴様オルディオ…何をしている、さっさと聖女を探しにっ!?」
教皇の取り巻きの一人がオルディオに高圧的な態度で近付くと手にした槍で腹を貫かれる、蜻蛉の腹の様な柄とあらゆる虫の針を重ね合わせた様な歪な穂先をした槍は鼓動を打つ様に震えると貫かれた男に異変が起きた。
「う!?げっ!?あああぁぁぁあああアア!!?」
男は床をのたうち回りながら絶叫する、何かが体を内から這い回る様に蠢いており少しして男の体を突き破って百足や蜂といった数多の虫が出てきた。
突然の事に動けないでいた教皇達を扉から入ってきた騎士達が取り押さえる、ようやく気を取り直して拘束を解こうと暴れた者は脚を斬られ逃げられなくされた。
「き、貴様!なんのつもりだ!?」
教皇は取り押さえられながらもオルディオを睨みつける、オルディオは教皇達を無機質な眼で見下ろしながら槍を握る力を強めた。
「…ずっと待っていた、聖女もガナードもお前等から離れて手薄になる時を…お前等を確実に地獄に落とせる瞬間をなぁ!!」
響き渡る怒号に教皇と取り巻き達は竦み上がる、自分達を守る筈の正教騎士によって拘束されている事実に自分の身を守るものがないのだとようやく理解した。
「俺はオルディオじゃない、正教騎士団第十三分隊“グラント隊”バグラス=ベルード…覚えはあるか?」
名乗られた名前に教皇達は必死に考える、だが誰一人としてその問いかけに答えられる者はいなかった。
「は、はは…ハハハハハハハハハッ!!やっぱりか!覚えてる訳がないか!やはりお前達にとって俺達は名前すら思い浮かばない程度の存在だった様だな!予想通り過ぎて笑えてすらきたぞ!?」
片手で顔を押さえながら笑うオルディオ…バグラスは教皇達に向けて嘲る様に告げた。
「覚えている訳がないよなぁ!?お前等の身勝手な都合で処分された者達の名前を!お前等の欲望の犠牲になった存在がどうなったかなど分かる筈がないよなぁ!?」
「き、貴様は…」
「ああもういい」
ピタリと笑いを止めて無表情へと戻ったバグラスは教皇の言葉を遮ると手にした槍を教皇と取り巻きに刺していく、すると教皇達は示し合わせた様に苦痛の声を上げ始めた。
「「「ぎゃあアアアアっ!!?」」」
生きたまま虫に体内から喰われる痛みは拘束を振りほどく勢いでのたうち回ってしまうほどの激痛を教皇達に与えていた。
バグラスが槍の石突で床を叩いて鳴らすと虫は動きを止める、息も絶え絶えの教皇達を見下しながらバグラスは告げた。
「その虫共は放っておけばお前等の体中を喰い漁り、やがて骨の髄まで喰らい尽くすだろう。お前等は死ぬまで喰われ続けなきゃならん訳だ」
「た、助けてくれ!!」
教皇は叫ぶ、もはや恥も外聞も関係なく教皇は命乞いを始めた。
「助けてくれ、頼む!助けてくれたら望むものを用意しよう!金でも女でも私達が持つもの全てをくれてやってもいい!だから殺さないでくれ!!」
「…そんなに死にたくないか?」
バグラスの問いに教皇達は必死に頷く、するとバグラスは教皇の前に立つとその頭を踏みつけた。
「だったら頼み方が違うだろうが」
「うぐ…」
「仕方ないから頼み方を教えてやる、お前等全員床を舐めながら“私達は人の害にしかならない穀潰しのクズです、生きててすいませんでした”と言ってみろ。
そうしたら死なせないでやる」
「ぐぅぅっ…」
騎士達は教皇達を土下座の様な態勢にして押さえつける、少しだけ躊躇っていた教皇達だが命には代えられないと床を舐め始めた。
「「「私達は人の害にしかならない穀潰しのクズです、生きててすいませんでした」」」
教皇達がはっきりと声に出して言い切ると、バグラスは指を振る、押さえつけていた騎士達は瓶を取り出すと教皇達にそれを無理矢理飲ませた。
そして再び槍で床を鳴らすと体内の虫達が再び教皇達をさっきまでと比べ物にならない早さで喰らい始めた。
「がぁぁアアあ!?」
「あがっ!ぎ…があっ!?」
「ぐがあアアアアアアっ!!」
絶叫する教皇達の体に異変が起きる、体中を喰われているというのに喰われた端から傷が治っていく…そして治ればまた虫達が体を喰らっていった。
「がぁあアア…こ、これはまさかぁ!?」
「エボルだ、面白半分で話してたんだから知ってるだろ?」
「や、約束が違う!助けるとぉ…」
「俺は死なせないでやるって言ったんだ、だからひとまず虫に食われても死なない体にしてやっただろうが」
バグラスの答えに教皇達は怒りや絶望と様々な表情を浮かべるがすぐに激痛でのたうち回った。
「…散々人を弄んで食い物にしてきたんだ、喰われる側の気持ちをたっぷりと味わって…地獄に落ちろ」
バグラスはそう言い残して部屋を後にする、部屋からは教皇達の断末魔がしばらく響き渡っていた…。
―――――
「これで老害共は終わりだ、次は…」
大聖堂から街を見下ろす、かつては美しいと思えた街並みも今や憎悪の炎を燃え上がらせるものでしかない。
だから壊してやろう、奴等が守っていたものを、後生大事に抱えていたものを奪ってやろう。
教国の全てを蹂躙してやろう。
手にした槍を掲げる、自身の鼓動と槍に宿ったものが一体化する感覚と共に叫ぶ。
「人捨獣纏“天蟲の御使”!」
叫びと共に解き放たれた力が全身を覆う、纏った力を槍に込めて床を突くと教国中に微弱な魔力が拡散した。
それは孵化の合図だった、教国に破滅をもたらす孵化の合図…。
…かつての事を思い出す、仲間を守る為に一人で騎士達を足止めした友とその友を殺した者達の事を。
「次はお前だ、ガナード!!」
背の羽根を羽ばたかせて友の仇の下へと向かった…。
オルディオ→odioを文字ったもの、日本語訳は憎しみ