60:黒い嵐(ガナードside)
(なんだこの男は!?)
振るわれた斧槍の穂先をガナードは盾で防ぐも斧槍は一瞬で消えてベルクの手には鎌刃剣が握られていた。
振るわれた鎌刃剣を聖剣で受ける、盾で殴りつけようとするが塔型大盾が遮る様に現れるとそれは突然こちらに迫ってきた。
「むうっ!?」
塔型大盾を蹴り飛ばしたのだと理解したのはすでに押し込まれた後だった、後退してすぐさま体勢を直すもベルクは既に孤月槍を振りかぶっていた。
唸りを上げて迫る薙ぎ払いを聖剣で受ける、なんとか受け流すもあまりの威力に手が痺れた。
ベルクは孤月槍から鎌へと変化させて振り下ろしてくる、盾を前に出して受ける事で刃が届く事はなかったが…。
「ぐっ!?」
盾の縁に掛かった鎌が凄まじい力で下げられた事で盾が下がる、直後に盾の縁に足を乗せて乗り越える様な形でベルクはガナードに迫った。
「く、ぬおおお!!」
体勢を崩されながらも聖剣を突き出す、だがベルクは盾を踏み台にして跳躍すると宙で身を翻しながら手にした黒剣でガナードの背を斬りつけた。
「だ、団長に傷を!?」
咄嗟に前に出る事で深くは斬られなかったもののガナードの背から血が噴き出す、それを見た騎士達からは信じられないとでも言う様な声が上がった。
着地したベルクは黒剣を大鎌へと変化させて勢いを乗せて振り抜く、盾で受けるが息つく間もなく両手に握られた小剣と手斧で凄まじいまでの猛攻が始まった。
盾で受けようとするも受けた隙を縫う様に放たれた鋭い一撃を聖剣で受ける度に手が痺れる、距離を取った瞬間に重い一撃を繰り出されて盾で受けざるを得ない、相手は一人だというのにまるで大軍と対峙してるかの様な重圧と黒い嵐の如き猛攻にガナードは歯を喰い縛った。
「ぬんっ!!」
盾で攻撃を受けると同時に押し出す様にして体当たりで突き飛ばす、ベルクは即座に体勢を直して黒剣を振り上げながら迫る。
「“耐え忍ぶ先に光あれ”!」
ガナードはそれに合わせる様に聖剣を振り上げ、光の刃を発動する、この距離とタイミング…そしてベルクの速さならば確実に黒剣ごとベルクを斬り裂けると確信して聖剣を振り下ろし…。
「“風跳”」
ベルクは黒剣を手放して更に加速した。
(なっ…)
一瞬で距離を詰めて振り下ろしていた右腕を掴まれる、凄まじい握力で右腕を掴まれ無理矢理止められたガナードの顔に苦痛の色が浮かんだ。
「聖装の仕組みはもう分かった」
右腕を両手で掴まれ捻られながら体を引っ張られる、視界がめまぐるしく変わった直後に体を地面に打ちつけられながら転がり終えた直後に力任せに投げ飛ばされたのだと気付いた。
「…その盾は受けた攻撃を全て吸収して無効化する、そして吸収した攻撃はその剣に力となって蓄積されていくってところか」
ベルクは膝をついたガナードに黒剣を突きつける、勝敗は誰の目から見ても明らかだった。
「…武器が良すぎると武器の強さに溺れる事がある、武器任せの戦い方を戦場でするべきじゃなかったな」
それは正教騎士団がたった一人に圧倒されるという異様な光景だった…。
―――――
(こんなものか…)
対峙したからこそ分かる、聖装ゼノスタンドは間違いなくレアドロップだ。
だがガナードはその全てを引き出せていない、この様子だと展開に至っていないどころかその存在すら認識していないのだろう。
(もう勝負はついた、が…)
右腕を極めながら投げた事でガナードの右腕は挫かれている、もはや聖剣を振るう力は残っていないだろう。
だがこの男がその程度で折れるとは思えない、ならばいっその事ガナードを斬ってゼノスタンドを回収するか?もしくは人質として連れていくかと少しだけ考えていると…。
「あアアあああアアッ!!」
後ろから騎士が声を上げて斬り掛かってきたのを避けると同時に蹴り飛ばす、次の攻撃に備えて顔を上げると信じられない光景が眼に映った。
「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」
「お、おい何をぎゃっ!?」
「うわぁぁ!や、やめろぉ!?」
その場にいた騎士達の半分が周囲にいた騎士達に襲い掛かっていた…。