55:破滅の未来
「世界が滅ぼされる?」
告げられた言葉を思わず繰り返す、それほどまでにその内容は信じがたいものだった。
だがセレナから誇張した事を言った様な雰囲気や焦燥が浮かんだ気配は感じられない。
「…私がこの杖を手にした時に見えたのがそれです、姿こそ分かりませんでしたが白いなにかがこの世界の全てを呑み込んでいく姿を」
「白いなにか?それって魔物なの?それともなんらかの天災かなにかが起きるの?」
「分からない…でもそれは明確な意思を以て世界を蹂躙してた、そして魔物よりもずっと強大で恐ろしい存在だっていうのだけは確信できた」
「…まるで物語の魔王か邪神だな」
「そうですね、白い破滅を例えるならそれが適切に思えます」
「…セレナが言うなら間違いないのだろうけど、どうしてそれをヴィクトリア姉さんに話さなかったの?他は信じなかったとしてもレアドロップの力を誰よりも知っている姉さんなら取り合ってくれた筈よ」
アリアの疑問にセレナは顔を曇らす、少しだけ口をつぐんでいたが意を決したかの様に口を開いた。
「勝てないの…」
「え?」
「ジャスティレオンを持つヴィクトリア様でも、例えヴィクトリア様以上に強い人がいても白い破滅には敵わない…あれは強い弱いとかじゃなくて根本的に違う存在だから」
「ね、姉さんが勝てない…?」
アリアが呆然と呟く、ただその気持ちは俺にも分かる。
ヴィクトリアは俺がこれまで出会った中でも最強格とも言える存在だ、そのヴィクトリアが勝てないと断言できるほどの存在などそれこそ神の類しかいないだろう…だが。
「だとしたら何故教国へ?それほどの存在だと言うなら手の打ち様がないんじゃないのか?」
「…いえ、ひとつだけあります」
セレナはそう言うと俺を見た。
「トゥルーティアーが見せたのはそれだけじゃないんです、最悪の未来…白い破滅に抗う方法も私に見せてくれました。
私が教国に来たのはその抗える存在を見つける為なんです」
「…抗える存在か、それは見つかったのか?」
「はい、見つかりました」
セレナの言葉に思わず俺とアリアは驚く、話を聞く限りでは白い破滅に抗う方法など存在するとは思えなかった。
「対抗手段ってなんなの?もしかして教国に伝わる聖剣とか…?」
「…私が見たのは嵐です、世界を覆い尽くす様な白い破滅を打ち破る黒い嵐の中心に立つ者の姿を」
セレナはそう言って一歩前に進み出る、前を見据える眼には俺の姿が映っていた。
「六年間ずっと世界の終わりを見続けて、それでも最後に見えた希望を信じて待ち続けて、こうして目の前にして確信しました…ベルクさん、貴方がそうなんです」
セレナの眼が潤む、探し続けていたものをようやく見つけたかの様に。
「カオスクルセイダー…その身に黒い嵐の軍勢を宿す貴方こそが白い破滅に抗える存在です」