51:涙に映る破滅
宿を出て二人で街道を歩く、街を観察しながら歩いているととある事に気付いた。
「冒険者ギルドがないな…」
「それに雑貨や食糧は売ってるけど武器とかは売ってない…あるのは農具だけね」
街道沿いにある店には武器や防具は売られていない、武器を持っているのは正教騎士達だけで他の人々は修道服や農民が着る作業服ばかりだった。
「聞いていた通りね、教国は魔物退治とか冒険者がやる事は騎士団がやっていてそれ以外は農業や産業とかに従事してるって」
「…扱いが良い様には見えないがな」
正教の職に就いているのはまだしも農業や下働きをしている者は服はボロくなっていて表情が曇っている者もいる。
すると剣の姿のままルスクディーテが俺とアリアにだけ聞こえる様に話しかけてきた。
「ふむ、気付いておるかの?」
「え?」
「鎧を纏っている者共からいくつか妙な魔力がするぞ」
「…身に付けている魔道具の魔力じゃないのか?」
正教騎士団の装備は付与魔術を施された一級品の代物だ、市販されている物よりも宿る魔力は多いのは必然なのだが。
「何と言うべきかの…完成された絵に一点だけあるシミの様な、肌についた羽虫の様な妙な魔力だ。
矮小なものだがそれ故に目につくと言うべきか?」
「…その魔力はどれから出てるか分かるか?」
「あれだ、奴等が首につけとる赤い石からだな」
気付かれない様に騎士達の首下を見ると紐に吊るされた十字架が揺れていた、ただ宿で見たものとは違い十字架の中央には小さな赤い石が嵌め込まれていた。
「どういうものか分かる?」
「見ただけでは分からないが…籠められた魔力量から複雑な付与はされてないと思う」
ただ上位の魔物であるルスクディーテが俺達に伝えてくるほど気にする以上は警戒しておく必要はあるだろう。
白く綺麗な街並に見え隠れする影の濃さはこれから先を暗示してるかの様だった…。
―――――
それがなんなのかは分からない。
なにが目的なのかも分からない。
だけどそれによって世界は終わる、大地も、海も、空も…あらゆる命はその白いなにかによって破滅を迎える。
それは万の軍でも敵わない、獅子を持つ皇帝でも倒せない圧倒的な存在に立ち向かえる者などいない。
だがもしも抗うとするならば…。
―――――
「…はっ!?はぁ…はぁ…」
目を覚ますと同時に起き上がる、肌に浮かんだ汗を拭うと窓からは日の光が差し込んでいた。
ベッドの傍に立て掛けられている水色の水晶から削り出したかの様な聖杖“トゥルーティアー”に触れながら物思いに耽る、それは今まさに自分が見せられた夢の事だった。
「周期が短くなってる、白い破滅が近付いて来てるの…?」
あの夢は私が初めてこの杖を手にした瞬間に見た光景、途方もなく強大で恐ろしい存在によってこの世界が滅ぼされるという最悪な未来の光景…。
触れた手を通して聖杖から意思が伝えられる、それはこの国に来てからずっと待ち望んでいたものだった。
「そう、とうとう来たのね…」
頭の中に滅びの光景が焼きついた直後に聖杖が伝えてきたのは最悪の未来に抗う為の方法、それはいずれこの教国に現れるというものだった。
「白い破滅を打ち破る黒い嵐が…」
私の呟きに聖杖は同意する様に一瞬だけ煌めく、誰かが来る前に私は支度を済まして動き始めた…。