49:滅びの影(???side)
ミルドレア帝国から離れた未開拓の森、高く生い茂る木々が生み出す影から這い出る様にして男が現れた。
「やれやれ…想定外がここまで重なるとは」
隻腕の男は黒い杖を突いて木々の中を歩く、森の中は猛獣や魔物が跋扈しているというのに男に気付く様子はなかった。
「三つのレアドロップを手に入れようと欲張った結果が失敗作の処分と片腕とは…まあ逃げれただけ儲けたと思うべきでしょうな」
ヴィクトリアのジャスティレオンが放った一撃、今の時代の者があそこまで強くなるとは想定していなかった、相手を過小評価して単独行動した結果がこれだ。
「この体はもう駄目ですねぇ…全く人間の体は脆すぎる」
一瞬だけ苛立ちが漏れ出る、周囲にいた動物や魔物達が一斉に逃げ出した。
「おっと、私とした事が…ついつい愚痴ってしまいました」
再び気配を消して進む、すると木々が倒れて巨大なものが暴れ回った様な痕跡のある場所に着いた。
視線の先には倒れた木々に腰掛ける男がいた、周囲には大小様々な魔石が落ちており、それだけでここで何が起きたかは充分に察せられた。
「暇潰しにしては遠すぎませんかな?探すのに苦労しましたよ」
「…貴様か、随分と姿が変わったな…腕も売り始めたのか?」
「ええ、ええ…女帝ヴィクトリアに買い叩かれましてね、想定を越えた強さでしたよ」
「ほう」
男が立ち上がる、傍らに立て掛けてあった白亜の剣を手にするとこちらへ向き直った。
「それほど強いのか、そいつとそいつのレアドロップは…ならば俺がやろう、ミルドレアに向かえば良いんだな?」
「いえ…貴方にはラウナス教国に行って頂きたいのです」
「ラウナスだと?あそこにはもう奴がいるだろう、今更何をしに行けと言うのだ」
「今ラウナス教国にはレアドロップを持った者が二人向かっています、ミルドレアは今ひとつしかございませんがラウナス教国には元々あるのと合わせれば四つ…手に入れる為の手筈は整えていますが不確定要素が増えた以上万全にしておきたいのですよ」
男は隻腕の男の話を静かに聞いている、隻腕の男は訥々と訳を語った。
「いくら成功作を渡したといえど今の私みたいになる可能性がありますからねぇ…だからこそ貴方に向かって欲しいのです」
「保険という訳か」
「ええ、我等の目的にはレアドロップがなくてはなりません…ですからひとつでも確実に手に入れて頂きたい」
「ふん…良いだろう、だが俺が行けばラウナスは滅びるかも知れんぞ?」
「構いませんよ、貴方が滅ぼすか彼が滅ぼすか…あの国はもはやそのどちらかで大差はありませぬ」
「なるほどな…」
そう言い残すと男は白亜の剣を手にその場を後にする、倒れた木々の隙間から零れ出た日の光が男の胸元を照らす。
そこには白金に輝くタグが揺れていた…。
次回投稿は10月からになりますm(__)m