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47:当然の結論(バドルside)


「それは当然後者の方で…」


「それが先程の答えです」


貴族の一人が答えると騎士団長がそう返す、すると貴族達の幾人かはハッとした顔をした。


「私は彼が国を出てから彼を調べましたが…学業は優秀な部類に入ると思えますな、特筆して優れているのはありませぬがそれでも一般の生徒よりは良い成績を維持しておりますし…それに彼は他の生徒よりも習い事が遥かに多かったらしいですな」


そう、セルクは私と同じ教育を受けていた、学園で習う算術や礼儀作法といったものだけでなく他国…主に帝国の文化を始めとした歴史にラウナス教の司祭が知る様な戒律など広い範囲を学ばされていた。


普通ならばそれぞれの家で必要な知識を段階を踏んで学ぶのを私は前倒しで数年先の範囲まで学んでいたがそれはあくまでも私に合ったやり方なのだ。


むしろ学園の教える範囲から外れた勉強に時間を割かれた状態で上位にいたセルクは十分に優秀と言える存在だ。


「だというのに彼の評価はヒドイものですな…生徒はおろか教師に至るまで周囲にいた者は彼を低く評価していた、私ならばその様な者達の為に頑張ろうとはなりませんな」


「だ、だが貴族ならばそれでも…」


「では貴公には出来るのですかな?」


「な…」


「どんな分野に置いても常に完璧を求められ、他が突かれない様な穴を突かれ、自身よりも能力が劣る者にすら見下され、どれだけの努力と結果を出しても報われない…そんな環境でも貴公は責務を全うできると?」


「…」


騎士団長の問いかけに声を上げた貴族は沈黙する、周りにいた貴族達も目を逸らすか同様に黙り込んでいた。


「私とて国を愛しておりますし、この国に住まう者の為に命を懸ける覚悟はあります…しかしそれは民に、周囲の者達に、なによりも陛下にそれに見合うだけの評価と対価を頂いたからこそ…彼がいた環境で貴公等はそれが出来ると言えますかな?」


出来る訳がない、そんな言葉を表情に滲み出しながら貴族達が黙り込んだところを騎士団長は更に追撃する。


「そもそも連れ戻すとは言いますがどうやってですかな?」


「そ、それは彼を説得して…」


「今の今まで関わろうとしてこなかったのにレアドロップを手にした途端に戻ってこいと?私にはその様な厚顔無恥な行いをする者がいるとは思いたくないですな」


「ぐっ…」


「そもそも彼が国を出た境遇を考えれば悪手の中の悪手でしょう、失敗すれば彼の怒りを買う…あの獅子帝ヴィクトリア殿に匹敵する力を手にした彼が敵になると想定した上で言ってるのですかな?」


騎士団長の言葉に大半の者が顔をひきつらせる、それは仕方ない事だった。


ヴィクトリア=リーシュ=ミルドレア、五年前に病で崩御した先代皇帝の後を継いだ獅子の国の頂点にして本来騎士団で対処しなければならない魔物災害(スタンピード)をたった一人で鎮圧したヒューム大陸屈指の女傑…。


その女傑が実力と功績を認め、称号と皇女を与えたセルクが敵となって戦う…それがどれだけの事かを連れ戻すと言った貴族はようやく理解できた様だ。


「…私も彼を連れ戻すというのは不可能だと判断している」


「ブレイジア公爵!?」


「あのグルシオ大陸で二年もの間生き抜き、帝国に着いて僅か四日で皇帝に代わり軍を動かす権限を与えられた称号騎士に任命される存在…下手に動けば帝国との戦争になる可能性がある、我々から動くのはあまりにリスクがありすぎる」


貴族派の筆頭とも言えるブレイジア公爵の言に貴族達は口をつぐむ、すると幾人かがこちらに目線を向けてきた。


…兄である貴方ならば説得できるのでは?


と言ったところなのだろうが私の答えは決まっている。


「セルクを説得して連れ戻すというのは私も反対ですね」


「ふむ、理由は?」


「主な理由はふたつ、ひとつは現在セルクはアルセリア皇女の護衛として帝国を離れており現在どこにいるかはまだ掴めておらず、いつ戻るかも不明という事」


「今は本人への交渉ができんという訳か」


「もうひとつは皇帝を襲撃した一味は我が国にも潜伏している可能性が高い事です」


私の言葉にその場にいた者が様々な反応を見せる、それをつぶさに観察したのを悟られない様に詳細を話した。


「皇帝を襲撃した者はレアドロップに加え未知の魔道具を使用していたそうで、襲撃者は商人を名乗って城の者達と内通していたそうです」


「…我等の中にも内通者がいると?」


「少なくとも今日集まって頂いた皆様は潔白だと判断して来て頂きました、ですが問題はかの女帝を襲撃するだけの力を持った者達が我が国に潜んでいる…これを放置してまでやる事ではないと私は言いたいのです」


「し、しかし言いにくいですが弟君が復讐しにくる可能性も…」


「復讐しようとしてるなら帝国など向かわず真っ直ぐこちらへ来ますよ、今のセルクなら一国を相手に立ち回れるだけの力があるのですから」


セルクは無関係な誰かを巻き込むくらいなら一人でなんとかしようとする、間違っても帝国をけしかけて大勢を巻き込む戦争を起こしたりなどする訳がない。


「結論は出た様だな」


王がそう言って場を鎮める、そして結論を語った。


「事の仔細、そして我が国の内憂を解決するまではセルク=グラントスへの接触を禁ずる…帝国との対談が終わった後に改めて方針が出されるまでは軽挙妄動を慎め、良いな?」


王の言葉に全員が頭を下げた…。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここに呼ばれて無い貴族がすでに暴走してたりしてな(明後日の方を見ながら
[一言] と、ここまで懇切丁寧に教えられて更に国王から直々に釘を刺されても、いらんちょっかいをかける阿保が出て来そうだなぁ…… 元婚約者辺りがやらかすことに期待(笑)
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