46:分かれる意見(バドルside)
「…は?」
ベルガ王と相談しながら事務作業をしていた時に帝国から重要な書類を意味する書簡が届き目を通した王の最初の言葉がそれだった、目を擦って読み直す姿を珍しく思っていると王はこちらを見ながら口を開いた。
「バドル、心して聞け」
「…なんでしょうか?」
「お前の弟が帝国で称号騎士となり第三皇女の婚約者となった」
「…は?」
王と同じ言葉が口を出る、あまりにも衝撃的な発言に手にしていた書類がバサリと机の上を舞った。
王から書簡を受け取って目を通す、そこには要約するとこう書かれてあった。
“この度、冒険者ベルクがグルシオ大陸よりアルセリアの救出と兼ねてより我が国で行っていた研究への多大な貢献に加え、先日城を襲撃した者の主犯格を撃破した。
かの者の功績は“黒嵐騎士”の称号を与えるに相応しく、またアルセリアと相思相愛の仲であるのを考慮して諸々の準備が調い次第、二人の結婚式を挙げる予定である。
なお、城を襲撃した者に関しての情報共有を行いたいので近々対談を希望する”
「んな…」
読み終えて更に絶句する、一枚の紙に書かれていたのは数秒の思考停止を起こしてしまうがすぐに情報を整理しながら思考を再開する。
「バドル、気になるものは多すぎるが重要なのは…」
「襲撃者とミルドレアが行っていた研究、ですね」
「うむ、特にミルドレアが推し進めていたものと言えば…」
「皇器ジャスティレオン…レアドロップ伝説に関するものでしょう」
これは随分前から噂されていたものだった、ミルドレア皇帝が代々継承する皇器はレアドロップであり帝国はレアドロップに関する研究を続けていると…。
もしセルクがその研究に貢献するとしたらどんな形で…。
「陛下、私に三日程時間を与えて頂けますか」
「…三日で集められるか?」
「必ずや情報の裏付けを取ってきます、その間に陛下には文官、武官の重役達に緊急の召集を掛けて頂いてもよろしいでしょうか?」
「うむ…それにしても」
「?」
「あの女帝を動かすとは、お主の弟も末恐ろしいな…」
「恐縮です」
一礼して執務室を後にする、まずは各ギルドを通じて情報収集にブレイジア公爵とは別口の伝手を辿ってミルドレアの直近の動向を調べる、他にもあらゆる角度から集めて情報を正確にしなければならない。
「皇女はまだしも皇帝を動かすのは予想外だよセルク…」
弟の予想外の動きに思わず呟く、そして集めた情報の濃密さに流石に胃が痛くなっていた…。
―――――
三日後、ベルガ王国の重鎮達が集まる中で王の隣に立ち全員が揃ったのを確認して挨拶する。
「今回は突然の召集に応じて頂きありがとうございます、今回の会議の司会進行は私バドル=グラントスが行わせて頂きます」
席についてる騎士団長、魔術師団長、魔術研究室長、公爵を筆頭とした要職につく貴族達を見ながら帝国から届いた書簡の内容と三日間奔走して手に入れた情報を説明すると王と公爵以外は驚愕の表情を浮かべていた。
「つまり帝国は…」
「長年の研究への貢献、更には集めたセルクの情報から考えてもセルクとアルセリア皇女はレアドロップとそれを手に入れる方法を得たと考えるのが妥当でしょう」
「しかしレアドロップは伝説の類では…」
「あり得ないと言い切れますか?そもそもジャスティレオンですら我が国が造る魔道具が束になっても圧倒する性能を持っているのです、それを長年研究し続けた帝国が国外の者の功績を認めるならそれこそ実物を持ち帰るくらいはしないと無理でしょう」
私の言い分に室長は黙ってしまう、すると黙々と資料を読んでいた騎士団長が口を開いた。
「つまり帝国は少なくとも二つ、アルセリア皇女も所有してるとしたら三つのレアドロップを保有したという訳ですな、そして資料の通りならばそのひとつはセルク殿が、もうひとつはアルセリア皇女が所有しており、セルク殿を引き込む為に称号と皇女を与えた…実に上手い手と言えますな」
「騎士団長!事の重要さを分かっておられるのか!?単純に考えれば帝国は三倍の武力を手にしたという事ですぞ!」
貴族の一人が卓を叩いて睨み付ける、騎士団長はそれを受けるとふぅと息を吐きながら視線をそちらに向けた。
「ならばどうすると言うのですかな?」
「決まっています!彼を連れ戻すのです!元々彼は我が国の貴族なのですから称号を与えられようとその力は我が国の為に振るわれるべきでしょう!それに彼が持つレアドロップを解析すれば我が国の魔術の技術と知識は更なる発展を…」
「無理でしょうな」
熱弁する貴族の言葉を遮りながら騎士団長はこちらに目を向ける、「言っても良いですかな?」と目線で語り掛けて来たので首肯すると騎士団長は資料を置いて語り出した。
「唐突な質問ですが諸兄、懸命に働いて成し遂げた事を「やって当然だ」と受け取る者と「良くやった、ありがとう」と受け取る者、どちらの為に頑張ろうと思えますかな?」
騎士団長はそう言って貴族達へと目線を向けた…。