45:獲物は逃がさず(ヴィクトリアside)
「行ったか…」
ベルクの姿が瞬く間に見えなくなると踵を返して城へと戻る、ついでに一心不乱に紙に書き込むフィリアの首根っこを掴んで連れていく。
「待ってお姉ちゃんー、あと少しだけー」
「工房で書け、それと新しい警備用の魔道具も全て設置し直せてないのだろう」
「はーい、それにしてもー…」
「なんだ?」
「いやー、ちょっと意外に思っただけー、幾らベルク君が魅力的だとしてもお姉ちゃんが体を張ったのは驚くよー」
フィリアの言葉はこれまでの私が皇帝として生きて女の部分を見せる事が少なかったからだろう、その疑問は当然と言えた。
「アリアの話とあやつのこれまでを考えてこれが一番良いと判断したまでだ」
「というとー?」
「あやつの実力ならばグルシオ大陸で活動していれば冒険者として確固たる地位と名誉を得られたであろうにそれを捨ててアリアに力を貸す事を選んだ、更には称号を与えられてもそれは得られる特権ではなくアリアの助けになると判断したから受け取ったのだろう」
曲がりなりにも皇帝をしているからこそ対面した相手の考えを多少は読める、そして大抵の者は正当な方法で金や地位が手に入るのならば断りなどしない。
だがベルクは違う、あの男からは金を得たい地位を手にしたいといったものは感じられなかった。
フルドが騒ぐ前に感じたのはこの面倒なのをさっさと終わらせたい、という空気だった。
「しかも力を貸す理由がアリアに情が湧いた、それだけだ…だからこそあやつは下手に権力や財宝を宛がうよりも情を抱かせるのが最適解だと判断した」
「なるほどねー」
「アリアの家族というだけでは些か繋がりが弱いからな、それにあやつには私の女としての姿を晒け出してしまったからな…どんな形であろうと我が一族に迎え入れなければ」
ベルガ王国がベルクに称号を与えた事やあやつの功績を知るのは時間の問題だ、ならば奴等が情報を得る前にこちらから情報を渡してしまうのもひとつの手であろう。
「しかし私からすればお前まで参加するとは思ってなかったぞフィリア」
「あははー、まあアリアちゃんのあんな話を聞いたら興味がねー、それにー…」
そう言ってフィリアは懐から小瓶を取り出す、小瓶の中には少量の赤い液体が入っていた。
「それは…ベルクの血か?」
「正解ー、昨日してる時にこっそりとねー」
フィリアは小瓶をかざしながら好奇心に輝く瞳で語り出した。
「生まれた時から肉体が身体強化を発動してるのと同じ状態になる先天性の魔力強化体質…更にはジャスティレオンとは明らかに違う傾向のレアドロップの所有者な上に性格も歪みない…研究対象としても種を貰うにしてもこれほどの相手はいないからねー」
「…視点は違えどお前もベルクを欲してる訳か」
「あははー、まあアリアちゃんからの了承も得たし、お姉ちゃんだって王配辺りにって思ってるんでしょー?」
「…ふん」
フィリアの質問には答えなかったが頭の中ではベルクをどの様に引き込むかを考えていた、称号や立場こそ与えたがベルガ王国があやつを再び戻らせようと画策する可能性は捨て切れない。
ここはやはり先手を打つべきだろう…。
「ベルクを繋ぎ止められなかった事を感謝しなければならんな、お陰で次代の皇帝の父に相応しい男と巡り合えたのだから」
今更返すつもりはない、改めて思いながら私は行動を始めた…。