43:称号を与えるという事
では皆様、ご唱和ください。
「俺に称号を…?」
言われた言葉を思わず繰り返す、それだけヴィクトリアが言った事は信じられない事だった。
称号騎士は帝国において皇帝の次に軍事に対する権限の持ち主…それこそ一部だけなら公爵に匹敵する位の権力と言える、称号自体は一代限りの位だとしても与えられる名誉や特権がどれだけのものかは語るまでもない。
「ですが…」
「既に他の称号騎士達と重臣達の認可は得ている、かねてより帝国で研究していたレアドロップの入手方法の証明、アリアを助けただけでなくレアドロップの入手の協力、更にはフルドを倒して被害を減らした…お前が帝国にもたらした益と功績は称号を与えるには十分過ぎる」
ヴィクトリアはそう言うと杯を呷って喉を潤す、そして少しだけ笑みを浮かべてこちらを見た。
「それに称号騎士となれば皇族との婚姻が可能となるぞ?誰に文句をつけられる事もなくアリアを嫁にする事も可能だ」
「なっ…」
思わずアリアを見るとアリアは顔を赤くして俯いていた。
「その…実は姉さん達に詰められちゃって、ベルクとルスクディーテの事を…」
「…全部話したか」
俺がそう言うとアリアは頷く、思わず頭に手を当てながらため息をつくとヴィクトリアは腕を組みながら話し出した。
「気負う必要はない、お前とアリアがそういう関係ならば私は歓迎する、それに称号と特権は与えるがそれに伴う責務等は行わなくても良い」
「それは俺としてはありがたいですが何故?」
「ひとつはラウナス教国の者共は金を持ってるか立場がある者に対しては弱い、称号騎士の名は中々に知れ渡っているのでな…皇女であるアリアの護衛として同行するお前も相応の身分ならば奴等も下手な動きはせん」
「牽制という訳ですか」
「うむ、ふたつめにお前は騎士として国に留めるよりも冒険者として自由に動き回ってもらう方が有用だと思ったからだ、それにまた厄介事に巻き込まれた時に後ろ楯があるとないとでは動きやすさも変わってくるだろう」
聞けば聞くほど悪い話ではない、たった二人で戦いに行こうとしていたが帝国の後ろ楯があれば動きやすくなるのは間違いない。
…セレナを助けた後に何か言われたり強要されるようなら二人を連れてグランクルズにでも逃げれば良いか、そう判断を下して答えた。
「分かりました、謹んで拝命致します。」
「ふむ、では称号なのだが…“黒嵐騎士”というのはどうだ?お前の戦い方を見ていた者達がまるで嵐の様だと口にしていたのでな」
「黒い嵐…ですか、ではそれでお願いします」
俺がそう答えるとヴィクトリアは呼び鈴を鳴らす、すぐに現れた侍女に幾つかの言伝をすると下がらせた。
「さて…堅苦しい話は終わりとしてベルク、お前の話を聞かせてくれんか?」
「話…とは?」
「私は冒険譚といったものが好きでな、その身ひとつであの魔大陸を生き抜いたお前の話を是非とも聞かせて欲しい」
「あーそれ私も聞きたいー」
ヴィクトリアに同調してフィリアも再び柔和な雰囲気を漂わせながら聞いてくる。
特に隠す事でもないので酒の肴にでもなればと話しているとアリアも冒険者として共感する事があったのか話していき、気付けば結構な時間を酒を飲みながら話していた。
(…そろそろ不味いな)
普通の酒場には出ないだろう高級な酒を少しずつ味わいながら話していたがそれでも酔ってきている。
アリアの件はこうしてなんとかなったが次もなんとかなるという保証はない、時間も時間だし休ませて貰おう。
「すいません、些か飲み過ぎたので俺はこの辺りで…」
「まあ待つが良い」
そう言って部屋を後にしようとすると肩を掴まれる、振り返った瞬間ルスクディーテが口を重ねて口の中に含んでいたのを流し込んできた。
「ふぐっ!?」
流し込まれた強い酒精と共に全身がカッと熱くなる様な感覚に襲われた…。
窓から差す朝日に照らされて目を覚ますと裸の三姉妹(+元凶)が俺を囲う様に眠っていた…。
昨日はお楽しみでしたね。