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40:一騎当千


カオスクルセイダーが巻き起こした竜巻がフルドをふき飛ばす、全身を包んだ竜巻は一瞬にして集まり凝縮されて形を成していった。


形を成したのはひとつの全身鎧だった、幾つもの武具を重ね繋げ合わせた様な装甲に翼の如き二又のマント、鋭さを感じさせる兜から爪先まで全てが漆黒に輝く鎧を纏っていた。


「な、なんダそレはぁ!?」


立ち上がったフルドが声を荒げる、それを無視して左手の具合を確かめるとフルドに向けてゆっくりと歩いた。


「ぐっ?う、うヴ…あア―――――ッ!!!」


フルドは怯んだ様な仕草から一転して斧槍(ハルバード)で薙ぎ払う、それに対し左手を斧槍に突き出して自身と斧槍の間に幾つもの塔型大盾(タワーシールド)を割り込ませる。


「がぁ!?」


突如出現した塔型大盾によってフルドの斧槍が止まる、止まった直後にフルドに懐まで一息に踏み込んで下から斬り上げる様に半月斧(バルディッシュ)を振り抜いた。


「ごハっ!?」


フルドの胸部に衝撃と共に皮膚に線が走る、衝撃で仰け反ったフルドの背後に回り込んで戦槌(ウォーハンマー)で殴打する。


「がっ!?」


背中を殴られて前かがみになったフルドの真上に跳んで脳天に兜割剣(コピシュ)で斬りつけて頭を地面に叩きつける、立ち上がって顔を上げようとした瞬間に顎を槌矛(メイス)で打ち上げる。


「ご…エ…」


「確かに強力な能力かも知れないが…やりようはある」


どれだけ強靭な鎧でダメージを軽減できるとしても耐えれないくらい強い衝撃を受ければ反動で仰け反ったり体勢を崩す、そして今のフルドは強靭な肉体を得たのは確かだが大きくなった体格と膨張した筋肉によって動きは精彩を欠いており力は増していく代わりに遅くなっている。


そして如何に再生する強靭な体でも再生するより早く絶え間なく攻撃され続ければダメージは蓄積されていく、カオスクルセイダーの能力を真に理解した今ならばそれが可能だった。


打ち上げられてぐらついた足下を大鎌(サイズ)で薙ぎ払う、硬質な音を響かせて体勢を崩したフルドが仰向けに倒れたところに三日月斧(クレセントアックス)を胸部に叩きつけると皮膚を破って刃が深く喰い込んだ。


「があアアア!?“土柱槌(ランドピラー)”!!」


フルドが叫ぶと周囲の地面から幾つもの土の柱が飛び出して迫る、土柱を避けて跳び上がっていくと立ち上がったフルドが再び斧槍をこちらに向けて投げてきた。


「死ねェえエ―――――っ!!?」


「…だから遅いんだよ」


風跳(ウィンドステップ)”で迫る斧槍を避ける、更に迫る土柱を掻い潜って急降下しながら両手に鍔のない刺突短剣(スティレット)を握る。


そしてフルドに跳び乗ると同時に面頬の隙間…眼に刺突短剣を深々と突き刺した。


「ぐぎゃあアアアああアアアッッ!!!?」


「お前は光を見る資格もない!」


刺突短剣の柄頭を踏んで押し込むと同時に跳躍する、仰向けに倒れて突き刺さったのをなんとか抜こうと踠くフルドを見下ろしながら構える。


…カオスクルセイダーの本質は武具を出す事ではない、カオスクルセイダーと同化した者達の魂に形を与えて力にする事だった。


変容する武具全てに彼等の想いが、願いが、祈りが宿っている…俺は現時点で可能な限りの魂をひとつにして鎧にする事で数千に及ぶ戦士達の力を纏っていた。


フルドに向けて落ちながら願う、愚行の果てに人ですらなくなった者を終わらせる為の武器をと…。


顕現するのはバルログを倒した巨大な刃、かつて一人の聖者がどんな強大な魔も断ち、退ける象徴として作らせた3mを越える巨大剣(グレートソード)だった。


巨大剣の刃が三日月斧によって生じた傷に刺さる、刃は強靭な皮膚を抉じ開けると心臓を断って背中を貫き、フルドを大地へと磔にした。


飛び退いて地面に着地すると鎧を解除する、だがフルドを磔にした巨大剣は消さずにいた。


如何に再生するといっても異物がある状態では出来るものではない、カオスクルセイダーを取り込めるなら別だがそれは不可能だろう。


「ぁがっ!?が!?がぁああっ!?」


「…?」


フルドのあまりの苦しみ様に疑問を浮かべる、幾ら再生能力があるといっても心臓を断たれたまま暴れていられるのはおかしい、だというのに奴は体をかきむしりながら叫んでいた。


かきむしる手足を始めとしてフルドの体がどんどん細くなっていく、全身の血管が浮き出ながら枯れていく姿にひとつの可能性に思い到った。


「まさか…エボルを飲んだのか?」


エボルとは回復薬(ポーション)の一種だ、万能薬(エリクサー)を人の手で造り出そうとした際に生まれたもので飲んだ者は不死身に近い再生能力と身体のあらゆる機能と能力が強化される。


だがそれは飲んだ者の生命力を代償としており、飲んだ者は一時間と保たずに激痛と幻覚に襲われながら血の一滴まで枯れた骸と化すという。


一時の強大な力と引き換えに残りの命全てと安らかな死を失う…故に悪魔(エボル)と名付けられ禁薬として製造方法すら破棄された薬だ。


心臓を貫かれた事で生命力を一気に失ったフルドの体はさっきまでの巨体は見る影もなく、痩せ細っていく姿はミイラの様になっていった。


「いや…だ…こ…な、死に…か、た、は…」


掠れた声で出た言葉は始めから存在しなかったかの様に虚空へと消えていった…。

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