39:黒纏う聖軍
気付けば全てが白く染まった世界に立っていた、フルドの姿も闇夜に浮かぶ月もない場所で俺は佇んでいた。
振り返るとそこには黄昏の剣墓で戦ったカオスクルセイダー…黒い鎧を纏った騎士が剣を手にして立っていた…いや、彼だけじゃなかった。
騎士の背後には多くの者達が武器を手に立っていた、同じ装備に身を包んだ兵士達が、槌矛を手にした僧侶が、大鎌を抱えた処刑人の様な者が、湾曲した刃を持った異国の装束を纏う者が…多種多様な装備をした者達が白い世界を染め上げるかの様に立っていた。
騎士が一歩前へ踏み出すと跪いて両手で手にした剣を捧げてくる、後ろにいる者達も同じ様に跪いてそれぞれの武器を捧げた。
徐に捧げられた剣を手に取る、掴むと同時に剣を通して強大な思念が流れ込んできた。
―――――我等は守るべき者達によって終わりを迎えた。
それは彼等の無念だった。
―――――信じていたものに裏切られ、抱いていた願いは踏みにじられ、尊厳を地に陥れられてきた。
命懸けで戦ったのに無責任な考えと悪意によって報いなき最期を辿った彼等が抱いた想いだった。
―――――それでも我等は名誉ある戦いを望んだ。
濁流の様に流れ込んできた思念が嘘の様に穏やかになった。
―――――汝が正しきの為に戦うならば、その信念を貫き通すのならば…我等は汝に全てを捧げよう。
「…そうか」
再び一人となって手にした剣を掲げる、ようやくこの漆黒の力がどういうものかを理解した。
「軍装展開」
脳裏に浮かび上がった言葉を口にする、自身の中に刻まれた思念を形にする為の言葉を。
非業の最期を迎えた戦士達の魂は奈落の闇へと堕とされた、積み重なり沈殿していく無念は漆黒の泥となって渦巻いた。
それでも心を喪わなかった彼等は名誉を求めた、奈落の闇たる黒に染まりながらも気高き心を持つ混沌の聖なる戦士達。
「黒纏う聖軍」
時代の闇に消された戦士達と共に再び戦場へと向かった…。
―――――
「…逃がしたか」
ジャスティレオンを肩に担ぎながら天井まで斬り裂かれた廊下を歩く、崩れかけた廊下には瓦礫と共に肩から斬り落としたあの男の片腕が落ちていた。
「あの一瞬で魔物の壁を作ると同時に撤退したか、腹立たしい」
懐からフィリアが作った魔道具を取り出して男の腕に当てる、すると男の腕から魔力が吸われていき魔道具の水晶部分へと封じられていった。
それを終えると腕を拾って立ち上がる、生け捕りには出来なかったがこの記録した魔力と腕があれば奴と接触していた証拠を見つけ出す事が出来る。
予想を越えた奴等の力量と出てしまった犠牲の多さに歯を噛み締めるが止まる訳にはいかぬ、この先皇帝の立場を追われる事になったとしてもそれは膿を出し切り、奴等を滅ぼしてからだ。
「…まずは残りの魔物達を片付けてからだな」
考えを中断して動こうとした瞬間に放たれた凄まじい力の気配に足を止める、崩壊した壁から力の放たれた方に目を向けた。
夜空が落ちてきた…そう錯覚してしまう様な黒い竜巻が起きていた、放たれる力の圧に驚愕せずにはいられなかった。
「あれはベルクのか?だがあやつがレアドロップを手にしてから1ヶ月も経っていない筈…まさかこの短期間で展開まで到ったというのか」
ゾクリと背筋が震える、余でさえその域に到るまで五年以上の時を要したというのに…。
「?…ジャスティレオン?」
普段は滅多に意思を伝えぬジャスティレオンの声に耳を傾ける、伝えられた事に思わず竜巻が起きた方へと再び顔を向けた。
「それが真実ならば…あやつは是が非でも引き込まなければならんな」
ジャスティレオンの言う事が正しいのならば…あの男は近い将来、一国を真正面から打ち破る力さえ得る事になる…。