38:理由
時はアリアがブラックウィドウを倒す前に遡り…。
城内を壊しながら迫るフルドをベルクはいなしていた。
「あひゃひゃヒャひゃヒャ!死ね死ねシネぇ!!」
3m近い体躯まで巨大化したフルドが狂気を撒き散らしながら斧槍を振り回す、飛び散る瓦礫を弾きながら弩を構えて撃った。
矢はフルドの腕に突き立つも鎧の様な皮膚に阻まれて内部には達さなかった。
「無駄ァっ!!」
薙ぎ払われる斧槍を避けながらフルドの顔に向けてナイフを投擲する、フルドは顔を逸らして兜でナイフを弾いた。
「!」
「うぅエあァ――――っ!!」
フルドは斧槍をこちらへと投擲する、横向きに回転しながら脚に迫る斧槍を跳んで避けると腕を振り絞った体勢のフルドが視界に映った。
(まずい!)
大型の円盾を両手で持って構えた直後にフルドの右腕が打ち込まれる、膨張した筋肉で出来た腕は破城槌と遜色ない威力で円盾に衝突した。
「ぐっ!?」
円盾を通して伝わる衝撃にふき飛ばされて壁にぶつかるがそれだけで衝撃は収まらず壁を突き破って再び外へと転がり出た。
「かは…っ」
咄嗟に防御したものの踏ん張りの利かない空中でもろに攻撃を受けたダメージと“風の加護”を長時間発動した影響で意識が飛びそうになった。
「お前ヲ殺してエ…アルセリアをォ―――――ッ!!!」
フルドは再び手にした斧槍を振り上げる、斧槍は狂う事なく俺の頭を狙って振り下ろされようとしていた…。
―――――何故戦う?
斧槍がやけにゆっくりと振り下ろされる感覚の中で頭に声が響く、頭の中では目の前に迫る危機ではなくその問いを考えていた。
…理由、この国の為?目の前の魔物を倒す為?違う、自分がそんな立派な理由で戦えるほど善人ではない。
―――――ならば誰の為に?
…誰の為かと言えばアリアの為だろう、アリアが俺に力を貸して欲しいと言ってくれたからだ。
―――――故に命を懸けると?
…どうしてそこまで出来るんだろうか?どうして俺はアリアにそこまで…。
(約束したの…必ず強くなって迎えに行くって…)
思い出すのはアリアが力を求めた訳を話してくれた時の事、地位もなにもかも捨てて友達の為に困難な道を選んだのだと知って…。
困難な道を自分の意思で選ぶ強さを持ったアリアが俺を頼ってくれた。
「あぁ、そうか…」
アリアは俺を頼ってくれた、周りと向き合う事を諦めて逃げ出した過去を知りながら俺の事を認めて力を貸してほしいと言ってくれた。
「俺は誰かに」
それは王国にいた時には…兄貴にだってしてもらえなかった事だった。
「頼って欲しかったんだ」
だから決めたんだ、俺はもう諦めて目を背けたけど…向き合う事から逃げてきた情けない自分だけど。
アリアの様に逃げずに立ち向かう強さを持った人が頼ってくれたその時は…もう逃げない。
逃げたくないと願う誰かの背を支えて、力になりたいと…。
「俺はずっと逃げてきた、そんな俺を頼ってくれたアリアの信頼に応えたい!俺自身を見て俺を認めてくれたアリアの期待からは逃げたくない!」
負ける訳にはいかない、こんな騎士崩れの外道に、アリアを物の様に扱う奴にくれてやるものか!
自分の中にある想いが明確になった瞬間、視界が白く染まった…。