15:噂
(フレアSide)
「エデスが死んだぁ?」
ギルドに併設された酒場で上がった話題に橙の脚甲が特徴的な女性が反応する。仲間の斥候が頷きながら続けた。
「まだ決まった訳じゃないんですが……エデスさんが戻る予定の日を過ぎても戻ってきてないらしいんですよ」
「あのクソ真面目が? 確かに珍しいがあたしらだって予定通りに戻れないなんてザラだろ」
「でもフレアさん。冒険者の中でも人一倍慎重で堅実なエデスさんがですよ? ギルドの方も調査に赴くべきじゃないかって声が上がってるらしいんです」
黄金級パーティ“暁の踏破者”のリーダーであるフレアは斥候の話に顔をしかめながらも思案した。
エデスは優れた単独冒険者として一目置かれていた。冒険者は予想外の事態に陥りやすい仕事だが持ち前の慎重さと判断力で切り抜け功績を積み上げてきた。そんな男が戻ってこないとなれば噂にもなるだろう。
「死んだとなれば面倒だね。あいつがやってたギルドの面倒事があたしらに回ってくる可能性がある」
「そうですよねぇ……ん? どうした?」
斥候が難しい顔を浮かべる回復術師を見て話し掛ける。回復術師はハッとした顔で話し始めた。
「いえ、なんとなくですが……エイクさんに続けてエデスさんまでそうなったと考えると嫌な予感がしまして」
「あー……そういやあの人も死んだってな。噂じゃロウド=ソリダスに喧嘩売って殺られたらしいぜ」
「……レアドロップの担い手が二人立て続けに亡くなるなんてあるんでしょうか?」
回復術師の言葉に全員が思わず口を噤む。仲間であるフレアを始めとして担い手の強さは良く分かっているからだ。
「確かに偶然だとしても、嫌な感じはするな」
壁役を努める男が酒を飲みながら呟く。少しだけ重くなった空気をフレアが一蹴した。
「あーもうやめだやめ! 冒険者が死ぬなんて日常茶飯事なんだ! それが偶々あいつらだったってだけでビビってたら仕事にならないよ!」
「そ、そうっすよね! 明日も深層に行くんですし縁起の悪い話はなしにしましょう!」
フレアの言葉に斥候が乗る。他の二人も笑みを浮かべて重い空気を取り払う。
「それに何が起きようとあたしが全部蹴り飛ばしてやるさ! あたしにはこのティガレイジがあるんだからね!」
フレアは橙の脚甲を叩きながら告げる。フレアの強さを誰よりも知っている仲間達は頷きながらもしばらく飲んでから解散した。
翌日、“暁の踏破者”は危なげなく深層のダンジョン“鉱人の地下要塞”へと潜っていった……。




