35:覇を叫ぶ獅子(ヴィクトリアside)
「これはどういう事だ」
城の廊下を歩きながらジャスティレオンを振るって迫る魔物達を蹴散らす、紅い光…皇気が刃となって魔物達を斬り裂き廊下の壁に叩きつけられると霧散して魔石となっていった。
…帝国どころかヒューム大陸では見た事もない魔物がどこから来たかを考えながら歩く、警備用の魔道具や騎士の警戒に不備があったか?
廊下のあらゆる影から這い出る様に新たな魔物が現れる、再び鋭く尖った腕を向けて群がってきた。
「どけ、痴れ者共」
ジャスティレオンの力である皇気を放出して蹴散らす、湧き出る度に蹴散らしながら進んでいるとこれまで出現した魔物達とは違う様相の者が立ちはだかった。
「いやいや、流石はヴィクトリア皇帝陛下というべきですな、この火急の事態に置いても動揺ひとつ浮かべないとは…」
黒いフードを深々と被った男に向けて斬撃を放つ、男が寸前で避けたところにジャスティレオンを振り下ろした。
男はどこからか取り出した黒い杖でジャスティレオンを受け止める、男を中心に床が割れるが男は平然として笑みを浮かべた。
「誰何を問わず殺しに掛かるとは、せめて自己紹介ぐらいはさせて欲しいのですが…」
「貴様があの愚か者に接触していた者なのだろう?余の帝国でコソコソと動き回っていた…な」
「おやおや勘づかれてましたか、私はただの商人なんですがねぇ!?」
男が押し込まれる寸前に周囲の影から魔物達が襲い掛かる、皇気を全身に纏って放出する事で男ごと群がる魔物達をふき飛ばした。
姿を消した男は少し離れた位置の影から浮上する様に現れた、フィリアの魔道具と騎士団の警備体制を抜けたのはあの杖…おそらくレアドロップによる特殊能力なのだろう。
「…成程、如何にして情報を得たり連絡を取り合っていたか分からずにいたがそれか」
「ええ、私のシャドウレギオンは影へと潜み影より現れる…それに私は魔術師の端くれでもありますので秘密のお話や情報の仕入れに必要な魔術は心得ているのですよ」
「貴様自身が伝達者と密偵を兼ねていたという訳か」
これは流石にフィリアや騎士団を咎められん、これだけの手練れがレアドロップによる特殊な力を駆使して潜入してくるなど分かる訳がない…フィリアに関しては警備魔道具の改良、騎士団には警備体制の変更と注意喚起をしなければなるまいが。
「しかし些か暴れすぎではないですかねぇ?ジャスティレオンの力を全力で振るえば城が保ちませぬよ?」
「ならばとっとと縛につけ、貴様に出来るのは余に斬られて瓦礫の下に埋まるか城が崩れる前に縛について生き永らえるかだ」
「恐ろしいですねぇ、なによりもジャスティレオンをここまで使いこなしているのが予想外でしたが…私としましてもあれこれと走り回ってようやく手に入りそうだというのに引くのは些か惜しい…ですので」
男が杖を床で突く、すると男の影が廊下へ広がっていき四方八方から魔物の気配がした。
「些か力ずくでも回収させて頂きますよ…あれに与えた紛い物ではなくこの城にある本物のレアドロップ全てをね…」
広がった影から魔物達が今までとは比べ物にならない密度で迫る、迫り来る魔物を薙ぎ払うがその度に魔物は数を増して迫ってきた。
「無駄ですよ、私のシャドウレギオンが生み出す影達が尽きる事などないのですから」
影の群れの向こうから男の声が聞こえる、確かにこれだけ圧倒的な数の力を有しているのならば余の命を奪えると思っても仕方ないのだろう。
「仕方あるまい…」
「おや?譲って頂けるのですかな?」
「貴様を生け捕りにして貴様と繋がっている者、貴様の仲間の事を洗いざらい吐かせてやろうと思っていたが…ここまで好き放題されるとなればそうも言っていられん」
皇気を全身に纏いながら魔物達を薙ぎ払う、ふき飛ばされた魔物達が壁となって勢いが止まった隙にジャスティレオンを構えた。
「なにより貴様のせいで帝国の膿が増えた、膿を出す為にくだらぬ手間を掛けなければならなかった、その愚行は命で償え」
ジャスティレオンの鍔にある獅子の眼が輝く、輝きに伴って皇気が広がった影を消し飛ばすほどに膨れ上がった。
「覇装展開、ジャスティレオン」
周囲を染めていた影を真紅の光が塗り潰した…。