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6:震わせ轟くもの


 猿は古来より様々な姿で畏れられた。


 ある地では戦士の王を呪った魔獣、ある地では日の神の使いとして、またある地では神々に戦いを挑み、封印され、長き旅の果てに神となった。


 高い知性と己を片腕で尻尾一本で全身を支えるだけの身体能力を備えた獣に人は神性を見出だした。






 ◆◆◆


 エイクの姿が禍々しいものへと変わっていく。全身を東方造りの鎧に身を包み、関節から剛毛が鎖帷子の様に生えてきていた。


 牙を剥いた猿の仮面は眼だけは露出しているがそこに理性の光はない。ただただ目の前にいる俺という敵を殺そうとギラついている。


「お、おい逃げるぞ!」


「え?」


「ああなったエイクさんに敵味方はねえ! 巻き込まれて死にたくねえだろ!」


 エイクの仲間であろう奴等が逃げていく。その直後にエイクの咆哮が轟いた。


「―――――っ!!」


「む?」


 大気を震わせる咆哮が俺の身体に届いた瞬間、全身を糸で縛りつけられたかの様な感覚に襲われる。


 一瞬の硬直を突いてエイクが棍を薙ぎ払う。寸前で魔力を足裏から放出して後退する事で直撃を逸らしながら籠手を竜鱗に変じて受ける。


「―――――っ!!」


 受けた腕が弾かれる。掠っただけであるにも関わらず振動で増幅した一撃はまともに受ければ骨肉を粉々にするだろう。


 エイクが振動で砕かれた地面を棍で打ち上げる。礫が凄まじい速度で迫るが剣に纏わせた魔力を風雷に変えて打ち消すと巨大な拳が迫った。


 拳を受け止める。一瞬で振動が増幅して衝撃を生み出し、弾き飛ばされるが剣を向けて“轟雷雨(サンダーレイン)”を放つとエイクは真正面から受け止めた。


(左腕が壊れたか……)


 受け止めた左腕は皮膚が破け血が流れ出る。感覚からして肘から先の骨も折れているだろう。


「―――――っ!!」


 エイクが咆哮を上げて棍を地面に叩きつける。激しい地震が起き、地面に亀裂が入って隆起すると土柱が周囲を覆っていった。


 無数の岩が浮き上がる。棍を回転させたエイクが俺を示すと浮き上がった岩が一斉に降り注いだ。


 ……使うとは思っていなかった。それほどの強さを持つ魔物に出会す事も使う機会もないと思っていたこの力を振るえる時が来た事に心が躍った。


 エイクは土煙が上がる場所に向けて跳躍すると空中で棍を振りかぶる。超振動を起こす棍は一瞬で柱の如く大きくなった。


「竜装展開」


 棍が振り下ろされると同時に隕石が墜ちたかの如く衝撃波と轟音が響き渡る。振り下ろされた柱を掴むエイクは肩で息をしていた。


「“生命の到達点(ハイエンド)”」


 柱が徐々に持ち上がる。砕かれた岩と土煙を巻き上げながら片腕で柱を投げ返した。


「凄まじい力だ」


 白亜の鎧が全身を包む。左腕に力を集中させると骨肉が蠢いて音を立てながら治っていく。


「感謝するぞ。俺の敵として立ってくれた事に」


 翼を拡げ風を起こす。俺とエイクの周囲の岩が吹き飛んで隔てるものがなくなった。


「まだ壊れてくれるなよ? エイク」


 俺の言葉に逆上したのかエイクは咆哮を上げて応じる。俺は治した左腕を鳴らしながら剣を構えた……。

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