4:最強の眼に映るは
その記憶は脳と魂を焼き焦がすには充分過ぎた。
四方八方から迫る魔物達を倒した先に待つ骸の巨人。頭と体を酷使しなければ突破出来ない罠と魔人。常に変化する鋼の迷路と怖れを抱かぬ人形の兵。理不尽な法と刑を科する天の使い。そして頂を守る兵達を退けた先にいた美しさすら感じるほど強大な生命の頂点に立つ存在……。
己が持っていた物、ダンジョンで手に入れた物、培ってきた経験と知識、持ち得るもの全てを出し尽くして足りるか分からない。一手間違えれば命が潰える状況を切り抜け、乗り越えた先で俺は“生命の到達点”を手に入れた。
頂点に立ち、ギルドは俺に白金級という称号を与えた。どこかの長だとか気取った奴等が会いに来た。俺を恐れる者もいたが顔も名前を知らない者達が同じ様な表情を浮かべ近付いてきた。
「……つまらない」
飯も、酒も、女も、金も、人が手にするあらゆるものが使い切れぬほど積み上げられてもハイエンドと戦った時の様に心は震えない。
人と関わる度に興味が失せていく。町にいれば全員が同じ表情を浮かべ、俺の力と手に入れた物で容易く益を得ようする者達が周囲を埋め尽くす。
煩わしい、喧しい、鬱陶しい……胸の内はそればかりとなり、怒りで荒立つ事すらなくなった。
「つまらない」
ダンジョンに潜り、魔物達と戦う。俺の命を奪おうする魔物達が放つ殺意は沈んだ心を震わせるが……。
オーガの魔術が迫る。これ以上の魔術を知っている。
リザードマン達が群れを成して襲い掛かる。より多くの群れと戦っている。
トロルが斬られた傷を再生させる。何度殺しても即座に甦るものがいる。
ゴーレムの拳が振り下ろされる。より大きく重い一撃を受けている。
ドラゴンがブレスが放つ。比較すら馬鹿馬鹿しくなる最強のブレスを見ている。
背筋が粟立つ様な事はない。思考を走らせなくとも、ただ己に刻まれた体の動きをするだけで魔物達は魔石となっていく。
己の命を脅かすもの……俺を奮い起たせるだけの力を持つ魔物は既にいない。
「これが……退屈か」
理由も目的もなくダンジョンを渡り歩く……町に比べれば静かなこちらの方が居心地が良い。
渡り歩いて物が失くなり、魔石や不要な魔道具で荷が満杯になればギルドに持っていく。何かを言ってくるが持ってくるのをやめると言えば奴等は黙った。
そうして渡り歩いていた時だった。ハイエンドに似た気配のする武器を持つ者が話し掛けてきた。切り上げて次のダンジョンに向かおうとした瞬間、久しく感じていなかった危険な気配が体を動かすと同時に衝撃が襲い掛かる。
「俺を……見やがれクソ野郎が―――――!!」
繰り出される突きを受ける。凄まじい衝撃が剣を通して全身に伝わり、体を震わせながら壁に打ちつけられる。
まともに喰らっていれば致命傷となっていたであろう一撃だった。
「……ほう」
全身に走る痛みが頭を冴え渡らせる。血が巡る感覚が鮮明になる。魔力を一呼吸で整え行き渡らせる。
久方ぶりに感じる死に心が震えた……。




