1:脱け殻
それはとてつもなく濃密で激しい時だった。
小石がぶつかったという小さな事がきっかけで死に繋がる状況だった。走馬灯を見る為の思考力すら目の前の敵に使った。得られる全ての情報と己の持ち得る全てを駆使しなければ一瞬で消し去られるほど苛烈な戦いだった。
だからこそ……その戦いは生涯で最も楽しい時だった。
◆◆◆
グルシオ大陸……。
魔大陸と呼ばれるこの大陸は流刑地として長らく扱われてきたがやがて流れ着いた人々が集落を作り、村を作り、町を作って大きくなっていった。
その大きな要因はダンジョンから獲られる魔道具や資源によって発展していったからだ。
やがてグルシオ大陸にはグランクルズという国が生まれた。国となるほど発展したのはある者が当時誰もが攻略できないとされていた数多のダンジョンを攻略して高性能の魔道具や宝を持ち帰ったからだ。
国を生むきっかけとなった男、ロウド=ソリダスには唯一の階級である白金級の冒険者としての称号と名誉が送られた……。
◆◆◆
「くそ! 気に入らねえ!!」
酒場の一角、野太い声がジョッキをテーブルに叩きつける音と共に響き渡る。声の主は筋骨隆々とした大柄な男で金属で補強した革鎧で身を包み、その傍らには先端が大猿の頭を模した棍が置かれていた。
「どこに行ってもロウドロウドロウド! 俺が何をやったってあの野郎の話しか出やしねえ!」
「エイクさん、気持ちは分かりやすが仕方ないですって……」
エイクと呼ばれる大男が同じパーティの男にそう言われるが気は晴れない。リーダーでもあるエイクの不機嫌さにパーティ間の空気は悪くなっていた。
「俺達も冒険者として結構活動してますけど……あの人は次元が違いますって」
「だよなぁ……それに今も町とかにほとんど帰らないでダンジョンに潜ってるし」
「それが気に入らねえんだよ!」
エイクが口元を拭いながら憤る。眉間に深い皺を刻みながら忌々しさを隠さずに吐き捨てた。
「まるで俺達は眼中にねえみてえなあの態度も! 何もかも手に入れられるのに必要ねえと高潔ぶってるのも! それを冒険者の正しい姿だと勘違いしてる奴等もよぉ!!」
鬱憤を吐き出しながら思い出す。かつてロウドに会った時の事を。
自分達をまるで路傍の石の様に、最初から認識していないとでも言う様な態度……なによりも許せないのはロウドに勝てないと感じてしまった自分にだった。
「まあまあ、正直俺達も気持ちは同じですから」
「そうですよ。それにギルドもエイクさんを黄金級に昇格させるって噂もあるくらいですから俺達は俺達のペースでやりましょって」
「……そうだな」
エイクは残りの酒を呷ると寝ると言って席を立つ。エイクの仲間達はジョッキを片手に声を小さくして話し始めた。
「なんつーか……エイクさん荒っぽくなったな」
「アレを手に入れてからよりな……だけど手を出されたりとかはしてねえし」
「俺達も帰るか? 明日は結構大きめのダンジョン行くんだからよ」
そうして男達は酔いもほどほどに解散する。日が昇るとエイクのパーティは深層と呼ばれる熟練の冒険者しか入れない地にあるダンジョンのひとつ“悪鬼の根城”へと向かった……。




