34:堕ちた騎士
「くははは…自分の技や武器が通用しないのはどんな気分だあ?さっきは私がそんな気分だったがなあ…」
「…鏡を見たらどうだ?お前の性根にお似合いの見るに耐えない姿になってるぞ」
立ち上がってフルドの質問には答えず武器を構える、フルドは面頬を着け直すと斧槍を力任せに振るってきた。
触れるだけで体を断たれそうな一撃を避けて跳び上がると肩口に半月斧を全力で振り下ろした。
だが重量を伴った筈の一撃は鎧のような肌に食い込むだけで下の肉には届かない、すぐさま手を放してこちらを掴もうとした腕から逃れて再び対峙する。
「…その兜か」
「あ?」
「お前の肉体は変容し続けているのに兜だけ変わる様子がない、おそらくはその兜がお前の肉体を作り変えてるんだろ?」
大刃槍を出しながら観察して導き出した推察を口にする、後は相手がどう反応するかだが。
「それがなんだぁ?貴様が私に勝てないのは変わらない」
「…それ、どうやって手に入れた?」
「それもぉ、どうせ死ぬお前に言っても意味がないぃ――――――っ!!」
フルドは叫びながら片腕で肉体と同じく変容していく斧槍を振り回す、その度に地面がめくれ、壁を砕き、大気が悲鳴を上げる。
(まともには受けれないな、それに生半可な攻撃は意味がない…なら!)
風と瓦礫を駆使して距離を取ると大刃槍に火と風を付与する、穂先が炎に包まれた大刃槍を全身を使ってフルドに投擲する。
「ぬうう…ぬああっ!!」
風によって加速する大刃槍をフルドは斧槍で受け止める、そして僅かな拮抗の後に大刃槍を弾き飛ばした。
大刃槍を弾いた体勢のフルドに肉薄する、左手に手甲と風を纏って下からフルドの顎を兜ごと殴りつける。
「風鳴衝破・砕!」
手加減なしの全力で放った一撃が振動と衝撃を伴ってフルドの頭を揺らす、だが手甲越しに伝わる感触に違和感を感じた直後にフルドの拳が迫る。
「くっ…がっ!?」
しゃがんで避けると前蹴りによってふき飛ばされる、地面をバウンドするも受け身を取って止まるとフルドは首をゴキゴキと鳴らしながらこちらを見た。
「残念だったなあ、その技は対策済みだあ」
面頬が開くと血と共になにかが溢れ落ちる、その正体に気付いてどう対策されたかに感づいた。
「砂で振動と衝撃を軽減させたか」
「そうだあ、そして今の私はあ、この程度の傷や痛みはすぐに治るんだよぉ!」
フルドの肩口の食い込んだ痕や大刃槍を弾いた時の火傷が瞬く間に塞がっていく、口から血反吐を吐き捨てたフルドは悪意の篭った眼でこちらを睨む。
「対して貴様はどうだあ!?さっきの攻撃は威力と引き換えに相当な反動があるのだろう!?果たしてその腕はまだ使えるのかあ!?」
…確かに“風鳴衝破”は腕を軸に風の振動を起こして攻撃するものだ、その振動と衝撃を一瞬で注ぎ込む“砕”は威力と引き換えに相当な負荷が掛かる。
現に左手は反動で痛みと痙攣が起きている、指を動かしてみるが長物は持てそうになかった。
「くはははははは!そうだ!私が負ける筈がない!恥知らずが私より優秀など!あり得る筈がナイィィィィッ!!」
フルドが狂笑を放ちながら迫る、その身体は更に硬質化していきより大きな異形へと変わっていった。
(さて、どうするか…)
肉体に比例して増大した膂力に鎧の様な皮膚、極めつけはあの再生能力をどうするか避けながら考えているとフルドは更に理性を失ったかの如く叫んだ。
「お前を殺してえ!アルセリアを!今度こそ私のモノにい―――――っ!!」
それは文字通りの人外へと堕ちた者の姿だった…。