33:迫りくる影
「!?」
痛烈な悪寒がして飛び起きる、素早く装備を着けて部屋を出ると遠くから争う音が聞こえてきた。
音がする方へ向かおうとした瞬間、後ろから殺気を感じ取る、手に小剣を出して振り向き様に斬りつけると肘から先が杭の様に尖った影法師の様なものが霧散して魔石が転がった。
「シャドウストーカー?なぜこの城にいる?」
シャドウストーカーはグルシオ大陸のダンジョンでも出現数が少ない魔物だ、あらゆる影へと潜り込み鉄すら貫く腕で奇襲してくる厄介な魔物だがグルシオ大陸のダンジョンでも一部のダンジョンにしか出現しない筈なのだ。
頭上から気配を感じ取って小剣から槍に変化させて突き上げる、上から落ちてきたシャドウストーカーが串刺しになるとその場で槍を振って壁へ叩きつける。
そこかしこで戦う音が起きている、理由は分からないが大量のシャドウストーカーが城内へと入り込んでいる様だった。
音がする方に向かうと騎士が複数の影法師に囲まれている、一体を槍で貫いた瞬間に背後から襲おうとしたものを手斧を投げて散らすと半月斧を出して騎士の背後にいた影法師をまとめて薙ぎ払った。
「あ、貴方は!」
「すまないが先導してくれ、他の者と合流しながらこいつらを倒す」
「っ!分かった!ついてきてくれ!」
騎士に先導され群がる影法師を蹴散らしながら騎士達と合流していく、騎士の中には重傷なのもいたが五人程助けた所で騎士を引き連れたアリアと合流した。
「アリア!無事だったか」
「うん、でもフィリア姉さんを助けにいかないと!フィリア姉さんの工房は城の離れにあるから!」
「分かった、行こう」
「貴方達は他の騎士達と合流して!手分けする場合は必ず三人以上で死角を庇いながら戦いなさい!」
「「「承知しました!」」」
元々が集団戦を得意とする騎士達だ、冷静さを取り戻して戦えばシャドウストーカーに遅れを取る様な存在じゃない。
アリアの先導で道行く騎士達に合流を指示しながら工房がある場所へ向かう、一旦城を出てアリアが案内する方へ走る。
その直後に目の前の城の壁を壊してなにかが横切る、それは鎧ごと巨大な刃で裂かれて絶命した騎士だった。
「これは…」
騎士が飛ばされてきた穴を覗くと数人の騎士と2m以上はある巨体の怪物がいた。
(あれは、グレンデル…か!?)
緑色の鎧のような肌に鬼の顔をした兜、更には身の丈と同じ大きさの斧槍を持って騎士達を蹴散らす魔物は明らかにシャドウストーカーとは格が違った。
手にした斧槍を倒れた騎士に振り下ろそうとするところを“風跳”で一気に距離を詰めて顔を剣で斬りつけた。
「硬いな…“風の加護”」
風を纏って倒された騎士を抱えて少し離れた場所にいた騎士の下に届ける、そしてこちらに来ようとするアリアに叫ぶ。
「アリア!お前は姉を助けに行け!」
「!」
「こいつも一体とは限らない!こっちは俺一人で充分だから行け!」
「…お願い!」
アリアはそのまま走っていくのを見送ると剣を斧に変えてグレンデルらしき魔物の前に立つ。
巨大な斧槍が振り下ろされる、避けながら斧を膝関節に叩き込むが擦った痕がつくだけで斬れた様子はなかった。
(関節もか!?)
あまりの頑強さに思わず舌打ちしそうになった瞬間、丸太の様な脚が真横から迫ってくる。
即座に自身を風で吹き飛ばして自ら跳ぶも先程の穴から外へと蹴り出されて転がった。
「くはははははは」
魔物が笑いながら壁を壊して外に出てくる、月明かりに照らされて浮かび上がるその姿は更に禍々しい姿へと変わっていっていた。
「手も足も出ない様だなぁ?セルクゥ…」
魔物が俺の名前を口にすると兜の面頬が動いて素顔が露になる、そこには狂気を宿した眼でこちらを見据えるフルドの顔があった…。