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111:掌中


 全てはあの時から始まった。


 一族が住まう里を焼かれ致命傷を負いながらも一人命からがら逃げ延びた。一族が代々守ってきた黄泉路を封印する地に辿り着いた時、欲望にまみれた人間への憎悪と絶望から私は封印に手を掛けた。


 良いだろう。それほど欲するならばくれてやる。欲望に振り回され無意味に奪い、争い、殺戮を繰り返す生きるもの全てに抗い様のない死をくれてやろう。


 黄泉の門が開かれる。流れ出す黄泉の冷気が私の体へと流れ込んできた。


「は、ははは、はははははははははははははははははははははははは!!」


 体を満たす黄泉の力が命じる。この世の生きとし生けるものを黄泉へと送れと……。







―――――


(ベルクside)


「馬鹿な……黄泉の門が封じられただと……」


 ムドウが殴られた腹を押さえながら呟く。殴った感触から事前に幾つもの術を自身に付与していたのが分かった。


 本気の拳を打ち込んで呻く程度で済んでいるのもそのお陰だろう。だが足に力が入らない様でその場で踠く様にしながら愕然としていた。


「アリア達が上手くやった様だな」


「馬鹿な!? 門の守りにどれだけの数を割いたと思っている!? 選りすぐりの骸を守護につけたのだぞ!?」


「俺を止められない程度のものにアリア達が遅れを取る訳がないだろ」


 ハイエンドを掲げると白亜の光が灯る。光が強くなるのに呼応して剣身に宿る力も増大していった。


「貴様、何を……」


「決まっているだろ。終わらせる」


「ぐっ……ああ!?」


 ムドウが錫杖から鬼火や雷と様々な術を放つがカオスクルセイダーで斬り払って防ぐ。ハイエンドの光は部屋を照らすほど眩くなっていた。


「く、くそ!?」


 ムドウの足下に方陣が浮かび上がる。こちらを牽制しながら転移の術を仕込んでいたと気付いた時には転移が始まろうとしていた。


 だが横から伸びた巨大な腕がムドウを鷲掴みにすると持ち上げて転移陣から引き剥がした。


「「!?」」


 お互いに驚愕の表情を浮かべる。残っていた魔神の腕はムドウを鷲掴みにしたまま宙に吊り上げた。


「き、貴様!?」


 ムドウの視線の先には魔神の肋骨の中に閉じ込められた男……ヨウザンが血を吐きながらも炎の様に揺らめく眼でムドウを捉えていた。


「貴様だけは……逃がさん!!」


 ヨウザンは俺を見る。眼光に込められた思いを感じ取った俺はハイエンドを構えるとムドウと魔神を見据えた。


「“天裂竜爪(リンドブルム)”」


 白亜の斬撃が振り下ろしたハイエンドから放たれる。全てを消し去る破壊の光は瞬く間もなく見据えたものを呑み込んだ……。













「…….ここまでか」

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