31:評価(ヴィクトリアside)
ベルクとフルドの一騎討ちが終わった後…。
玉座の間にて皇帝ヴィクトリアと五人の騎士のみが集まっていた。
「さて、お前達はあの男…ベルクをどう思う?」
「率直に言えば私の団に入れたいですな」
余の発言にボルガが間髪入れずに答える、それに蒼い鎧“雷穿騎士”ランディルが反応する。
「待て待てじいさん抜け駆けするなよ、あいつはうちの団に入れさせろや」
「貴方も急ぎ過ぎですランディル」
深緑の鎧“緑壁騎士”アルクトスがランディルを諌めるとそれに続いて白銀の鎧“清廉騎士”ルミナスが発言した。
「彼の実力は認めます、あの変幻自在な武器もさる事ながらそれらを使いこなす技倆は我々に勝るとも劣らないでしょう」
「だろ?なら…」
「それでもデメリットの方が大きいと思います」
ルミナスの言葉がランディルの言葉を遮る、すると黄土の鎧“砂陣騎士”ロスフォールが「ふむ」と顎をさすりながら口を開いた。
「バドル=グラントス…ですな」
ロスフォールの言葉にルミナスが頷く、ロスフォールは思案するようなため息をつきながら訥々と語り始めた。
「今のベルガ王国は彼の手腕によって王族による一枚岩と言える状況になりつつある、弟である彼を引き込もうとすればバドル=グラントス…引いてはベルガ王国との関係を左右するでしょうな」
「その通りです、彼は謂わばバドル=グラントスに対する切り札であり爆弾です、彼を引き込んでベルガ王国との関係を下手に動かすよりは二人の仲介役なりになって確実に恩を売る方が良いかと」
「おいおい…お前も同じかアルクトス?」
ランディルに話を振られたアルクトスは少しだけ沈黙していたがやがて口を開いた。
「私としては未だ決めるには判断材料が足りない、と思っています」
「足りない?」
「お二人の言う通りベルク殿は本人の自覚あるなしに関わらずベルガ王国との関係を左右させる存在です、しかし彼が陛下の皇器に匹敵するレアドロップとそれを手に入れる実力を有しているのも事実です」
アルクトスの言葉にはルミナスとロスフォールも頷く、ベルクが仮にも副長を任されたフルドを圧倒しながらも全力でなかったのは彼等も理解していた。
「更にアルセリア皇女がレアドロップを手に入れられたのも彼の助力あっての事、今我が国にはたった一人で戦場を塗り替える力を持った者が三人もいるのです、その一人を手放すのは惜しいとは思いませんか?」
「…確かに」
「ぬぅ…」
「それに気づいておられるかは分かりませんがアルセリア様はベルク殿に対して執心しておられるご様子、彼が国を出るとなればそれについていこうとする可能性は否定できません」
「む…」
思わず呟きが口から漏れる、現にアルセリアは皇族の身分を放棄すら厭わず力を求めて旅に出た。
承認していなかったからアルセリアの皇族としての身分は健在だがベルクについていく、更に言えばアルセリアは目的の為にまた城を出ようとするのは容易に想像できた。
「ひとまずはベルク殿を知る事からやるべきでは?今の我々は彼が強いという事とバドル=グラントスの弟であるという事、そして敵には容赦しないとしか分かっていないのが現実です、どの様にするかはその後でも良いかと」
「…確かに判断するには材料が足りぬな」
こちらに引き込むにしろベルガ王国に引き渡すにしろ情報が少な過ぎる、ひとまずは最優先で冒険者ギルドから情報を得る所からか。
「ではベルクの件はひとまず保留とする、次にあの愚か者と奴等に関してだが…ランディル、奴はどうしている」
「今は医療班が治療中、医療班によると骨も内臓もギリギリまで壊されてるから少なくとも一週間は絶対安静との事なんで部屋の前に見張りを置いといて誰も出入りできない様にしといてます」
「とすると奴等と接触するならばその後か」
帝国内だけでなく各国で隠れ動いている者共、それがフルドに接触している事が判明したのはつい最近だ。
確実に奴等の尻尾を掴む為に泳がせていたが今回の事であの愚か者が奴等と動く可能性は高い、あれだけの暴挙をして処刑せずに生かしているのもそれ故だ。
「ひとまずはここまでだ、これ以降は確定するに足るものを得るまで各々動け、以上だ」
「「「承知しました」」」
騎士達に命じて玉座の間を後にする、だが予想に反して事態は急速に動き始めた…。