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95:日輪の巫女


 光が形作ったのは荘厳な衣装を纏った巫女だった。その背には光輪が浮かび、光を浴びた髪は朝露の様に白く輝いている。


 閉じられていた眼が開くと白い瞳孔が俺達を見据える。そして紅の唇がゆっくりと開いた。


「この姿で人と対話するのは随分久しぶりに思えます」


 聞くと思わず安心する様な、暖かさを感じる声音でカムツヒはそう呟くとヒノワを見て微笑みを浮かべた。


「ヒノワ、ありがとうございます。貴方のお陰でようやく話す事が出来ます」


「話す……?」


 思わず疑問が口に出るとカムツヒは俺に困った様な顔を向けながら話し出した。


「一年前ですが……()(かみ)を喚ぶ依代に使われた後すぐに無茶をしたので力の大半を失ってしまったんです。力を回復する為に眠っていたのですがヒノワの術のお陰で起きる事が出来ました」


「……そういう事か」


 アリア達から聞いてはいたが世界中に声を届けるというのは相当な負荷だった様だ。ヒノワと意志疎通が出来なかったのは休眠状態になっていたからと考えれば納得もいく。


「ひとまず、今の状況を教えた方がいいか?」


「いえ、眠っていたと言ってもこの地と空気、そしてヒノワの声からある程度は分かっています。かつて封じた黄泉の門が再び開こうとしている事も……」


 カムツヒはそう言うとヒノワに向き直る。姿勢を正したヒノワを測る様に見ると目を合わせながら言葉を紡いだ。


「ヒヅチは我が故郷、故郷の危機とあらば力を貸すのもやぶさかではありません……ですがひとつだけ問わせて頂きましょう」


「……なんでしょうか?」


「貴方はどうして戦うのです? 貴方が危険を侵さずとも方法はあるでしょう。それでも恐怖を押し殺して力を求めるのは何故ですか?」


 カムツヒの問いにヒノワは口を噤みながら俯く。だが意を決したかのか話し始めた。


「私は……守られてばかりでした」


 ヒノワは自らを抱き締める様にしながら言葉を紡ぐ。震える体でそれでも口にした。


「色々な人に守られて、助けられて、私にはアメリの様に剣の才能がないからって言い訳を作って誰かの後ろにいてばかりでした」


 ヒノワの頬を涙が伝う。零れた涙が床に落ちて染みるのも構わずヒノワは続けた。


「でももう嫌なんです。私も後ろにいるんじゃなく並び立ちたいんです! 父様が残してくれたゴモンの未来を守りたいんです! 相手がどれだけ強大だったとしても!」


「だから! 力を貸してください! カムツヒ!」


 ヒノワが内にあった思いを叫ぶ。カムツヒはしばらく黙っていたがやがて微笑みを浮かべて答えた。


「戦うのを恐ろしいと思いながら、嫌っていながらも誰かの為に力を欲しますか……良いでしょう」


 カムツヒの体が輝いて姿がほどけていく。光はヒノワを包んでいくとその手には輝きを取り戻した鏡があった。


「貴方のその気持ちが失くならぬ限り、私の光は共にありましょう。その生涯を通して光が消えぬ様にしなさい」


「……はい」


 こうしてヒノワはカムツヒの正当な担い手となった。

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[一言] 人外でも嫁に…穢た大人の妄想です
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