29:圧倒
「おおおおおおおおおっ!!」
振り回される斧槍を避ける、時に剣で弾く、振り下ろされた斧槍を横に避けた瞬間に剣を鎌に変化させて上から斧槍を押さえつけた。
「“風鳴衝破”」
懐に飛び込んで空いた手に手甲と風を纏って脇腹を殴りつける、殴った瞬間に風が拳を小刻みに震わせて振動が鎧へと伝わった。
「がはっ!?」
脇腹の衝撃に身体を硬直させたフルドの斧槍を持つ腕を掴んで肘関節に膝を叩き込む、その衝撃で揺るんだ手から斧槍を奪い取って腹を石突で打ち抜く。
たたらを踏んで下がったフルドは膝をつく、奪い取った斧槍をフルドの前に投げ捨てた。
「返してやる、拾え」
フルドは視線だけで射殺さんとばかりにこちらを睨む、歯軋りの音を響かせながら手元に落とされた斧槍を掴んで薙ぎ払いを放った。
勢いが乗る前に手元に黒い斧槍を出して穂先をぶつけて弾く、そのまま距離を詰めて柄を交差させると鍔迫り合いの如く押し合った。
「くっ…なんなんだその武器は!?」
「お前がみすぼらしいと言ったもの」
身体強化を強めて押し込む、そのまま斧槍同士で戦い続けながら確信した。
(強くはないな…)
確かにフルドは弱くはない、斧槍という扱いが難しい武器を使いこなせているしここまで動きのキレを失わないくらいの体力もある、冒険者なら青銅級くらいの実力はあるだろう。
だけどそれだけだ、ミノタウロスの様な怪力と破壊力がある訳でもキメラの様な俊敏さと鋭さがある訳でもなく…ましてやカオスクルセイダーの様に相対するだけで背筋が震える様な感覚が欠片も感じられない。
穂先を絡める様にぶつけて下げる、フルドの斧槍もつられて下がった瞬間に斧槍を槌矛へと変化させて柄の上を滑る様になぞって腹を殴りつけた。
凹んだ鎧の上から腹を押さえながらフルドが膝をつく、もはや勝敗は決していた。
「認めない…」
「…?」
「認めてたまるか!貴様が私より強いなど!逃げ出した恥知らずに劣るなど認めてたまるかぁ!!!」
フルドが叫びながら魔力を放出する、魔力は手にする斧槍へと集まっていき斧刃を岩が覆っていき巨大なものへとなっていく。
「…降参する気はないのか?」
「黙れ黙れ黙れ!貴様の様なアルセリア様に相応しくない者がふざけた事を抜かすなぁ!!“巨岩斧斬”!!!」
2m近くはある巨大な岩の刃を横薙ぎに払ってくる、これほどの質量を誇るものとなると防御は確かにできないが…。
「遅い」
“風跳”で跳躍して避けるとそのまま宙を蹴って高速で距離を詰める、振り切った体勢のフルドの前に立つと手甲を纏いながら魔術を発動して脇腹を拳で打ち抜く。
「“風鳴衝破・砕”」
打ち抜くと同時にさっきとは比べ物にならない振動が一瞬で拳を通して伝わる、振動と衝撃は同時にフルドの体内に伝わって内部から破壊した。
「お前に騎士の資格はない」
「ご…ぽ…っ」
手から斧槍が零れる様に落ちるとフルドは泡を吹きながら倒れる、静まり返った闘技場で皇帝が立ち上がり声を上げた。
「勝敗は決した、この戦いの勝者はベルクである」
皇帝はフルドには一瞥もくれず俺を見つめてきた。
「ひとまずは配下の不始末を押し付ける形になったのを詫びさせてもらう、だからという訳ではないが今回とは別で礼を用意しよう、部屋を用意するゆえ今日は体を休めるが良い」
そう告げると皇帝は称号騎士を引き連れて闘技場を後にした…。
―――――
「いやー凄いねー、形態を意思に応じて変容?でも君が手放してから別の武器を手元に出したら消えたよね?手放しても手元に戻ってくる能力もあるのかな?興味深いなー」
戦い終えて闘技場を出た直後にフィルネリアに呼び止められて質問責めされながら武器を観察されている、振り払おうにも相手は一国の皇女で手荒な真似は出来ず周りの騎士達も止めようにも止められないといった様子だった。
「フィリア姉さん、その辺にして」
アリアがフィルネリアの首根っこを掴んで引き剥がす、「あー」と間の抜けた声を上げながら掴まれる姿は歳上とは思えなかった。
「アリアちゃん放してー、私には目の前のレアドロップを解析するという崇高な使命がー」
「ベルクは戦い終わったばかりなんだよ?今日の所は疲れてるし調べるにしたって無理矢理じゃなくてちゃんとお願いするべきでしょ」
「むー、アリアちゃんのだって調べたいのにー」
「分かった、今からヴィクトリア姉さんに言って…」
「突然質問したりしてすみませんでした」
アリアが言い掛ける前に姿勢を正してこちらに謝ってくる、さっきまでの様子からは予想も出来ない俊敏さだった。
「いえ、お気になさらず」
「本当?あー良かったー、遅くなったけど自己紹介するねー、アリアちゃんのお姉ちゃんのフィルネリアですー、フィリアって呼んでくださいねー」
「改めてありがとうございます、私はベルクと呼んでください」
「ベルク君だねー、微塵も気にしないので話す時は敬語じゃなくても良いですよー、そして出来ればその武器の事を詳しく…」
「フィリア姉さん!」
「わわわ、怒んないでー?妹の愛しい人にひどい事しないってー」
「なっ!?」
フィリアの何気ない一言にアリアは動きを止める、その反応にフィリアは一瞬きょとんとすると「ははぁーん?」と口角を吊り上げた。
「なるほどなるほど…うんうんそういう事かぁ…」
「ちょっとフィリア姉さん!?」
「いやーごめんごめん、アリアちゃんが見つけたのは獅子だけじゃなかったんだねー、これは今日の所は大人しく工房に戻らないとー」
ひらひらと手を振りながら城へと戻るフィリアを見送る、アリアを見ると羞恥と疲労が入り交じった表情で赤くなっていた。
「…なんというか、自由な人だったな」
「うぅ…」
アリアが立ち直るにはもう少し時間が掛かりそうだった…。