59:思惑(オヅマside)
「負けただと!?」
「はい」
天堂城の天守閣にヨウザンの声が響き渡る、ムドウは淡々と報告を続けた。
「信じられぬ事ですがゴモンは鬼の助力を得ました、鬼の介入により戦場が乱れシオン殿は討ち死にされました。」
「有り得ん! 鬼であろうとシオンが負ける筈がないだろう! 雷顎焔嘴の使い手であるあやつが戦場で死ぬものか! 混乱に乗じて暗殺でもされたと言うのか!?」
「いえ、シオン殿は暗殺ではなく一騎討ちに敗れ討ち死にされました」
「一騎討ち……だと」
ヨウザンは力なく座り込み頭を抱える、シオンに全幅の信頼感を置いていたヨウザンにとって今回の報告は余りにも衝撃が大きかった。
「あのシオンが一騎討ちで負ける? 百度戦えば百度勝利すると謳われたあやつが? 帝国の騎士とはそれほどの強さを有していると言うのか?」
「……シオン殿が負けるのは私にとっても予想外でした。早急に対策を取っております」
「対策だと?」
シオンは怒気を露にしてムドウを睨みつけた。
「シオンの敗北と死は瞬く間に広がるだろう、シオンを倒したゴモンに同調し反旗を翻す国も出てくる……そうなれば情勢は良くて五分五分、いやシオンを失ったオヅマの方が不利やも知れぬ……それに対する策があると?」
「確かに此度の事は予想外、ですがシオン殿が残した時間は無駄ではありません」
こちらをどうぞ、とムドウが水晶を手に取ると妖しく輝いて映像が映し出された。
「これは……」
浮かび上がったのはおぞましい魔物達の姿だった。黄泉兵だけでなく様々な異形の者共、魑魅魍魎の群れが人間の軍隊の様に整列していた。
「黄泉呪法によって召喚した兵です、数はもう少しで三万ほどになります」
「三万だと!?」
「更にその中でも強く忠実な者を強化させています、常人の軍など容易く蹴散らせましょう」
ムドウは水晶越しにヨウザンを見据えながら答えた。
「シオン殿の犠牲を無駄には致しません、ヒヅチ統一の為にも殿に刃向かう全てを打ち破ってみせましょう」
―――――
(やれやれ……)
呪戒塔に戻ったムドウは廊下を歩きながらも内心でため息をついた。
(シオンを始末する手間が省けたのは良いが……結果としてもっと厄介な存在が現れるとは)
ムドウは自分の事を探っていたシオンに警戒していた、自身の計画がある程度まで進んだら始末しようと思っていたが想定を超える存在が現れた。
「黒嵐騎士か……よもやこれほどとは」
次の手を考えていると窓から鳥の式神が入ってくる、シオンの手に乗った式神は札に戻った。
(前回は射貫かれてしまったからな)
シュリンによって射貫かれた式神は感覚共有していた事でシオンにも射貫かれる感覚が伝わった。
だから今回の式神は感覚共有の代わりに遠視が可能なものにして戦場から離れた場所から観測させた、情報をすぐにとはいかないが気付かれる事はなくなった。
(凄まじいな……)
状況はベルクとシオンが姿を変えて戦っていた最中だった、やがてシオンが斬られベルクが鎧を解除する。
「!?」
ベルクの姿を見てムドウは驚愕する、踞って呻き出すと声を荒げて叫んだ。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な!? 滅びたのではないのか!? 既にゴモン以外の系譜は跡絶えた筈だ!?」
ムドウの叫びが廊下に響く、ムドウ以外は存在しない暗い廊下に怨嗟すら感じられる声が響いた。
「忌々しきカミシロの一族……! また我等の大願を阻む気か!」
そう叫ぶムドウの顔の左側は皺が刻まれた別人のものになっていた。
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