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57:本質


「ヒノワか、アリア達といると思っていたが」


「アリアさんはセツラさんが飲み比べを始めてしまってそちらの方についてます、私はベルクさんが戻るところを偶然見たので……隣よろしいでしょうか?」


俺は無言で促すとヒノワは隣に座る、見れば酒瓶を持っていた。


「飲めるのか」


「いえ……ベルクさんはお酒が飲めるならこちらもと思いまして」


そう言って杯に注がれたのはどぶろくとは違い透明な酒だった、月夜を映す酒を口に含むと飲んだ事のない初めての味わいでどぶろくより好みだ。


「美味いな」


「大吟醸というものです、父が好んで飲んでいたのですがお口に合った様でなによりです」


「そうか、クノウの……」


空になった杯を見て感慨に耽る、そんな俺をヒノワがじっと見ていた。


「どうした?」


「あ……すいません、やっぱり似ていると思いまして」


「似ている?」


「はい、父とお祖母様に」


そう言うとヒノワはその理由を教えてくれた。


「お祖母様はツクヨの先代担い手でした、母と私に術師の修行をつけてくれた人で……とても強い芯を持つ人でした」


ヒノワはそう言って首に下げた勾玉に触れる、古いものだが良く手入れされているからか輝きを失っていない。


「最初ベルクさんにお会いした時は強い芯を感じられる眼が似てて少し驚きました……でも今は父に似ていると思います」


「俺がか」


「はい、父も戦いがあった日はこうして月を見ながら飲んでいました……今のベルクさんの様な表情を浮かべて」


ヒノワはそう言って懐かしむ様な、涙を堪える様な顔をしながら俺を見た。


「ベルクさんは不思議な方です、違うと分かっていてもその在り方と背中に誰かを重ねたくなってしまいます」


「……俺とクノウは違う、俺は戦いに楽しみを見出だしたがクノウは一度たりとも楽しんだりしなかった」


戦いを楽しむ、自分のどうしようもない性根がある限り俺はクノウの技を使えてもクノウの様には生きれない。


「俺とクノウを重ねない方が良い、彼の生き様は尊敬するが俺は彼の様に優しくはなれない」


俺がそう言うとヒノワは首を横に振る、そして俺を見ながら答えた。


「優しくない人は敵となった相手を悼まないと思います」


「……」


「まだ日は浅いですが少し分かってきた気がします、ベルクさんは強いだけの人じゃないと」


「何が分かったというんだ?」


「そうですね、冷たく突き放す様な話し方をしますけど根底には相手の為に言ってるところやこうして私を追い返さず話を聞いてくれてるところにベルクさんの優しさがあると思います」


ヒノワはそう言って微笑む、バツが悪くなり酒を飲んで誤魔化した。


「苛烈なところや強さに隠れてるだけでベルクさんの本質には父と同じ優しさも感じます。アリアさん達もベルクさんのその優しさに惹かれたんだと今なら分かる気がします」


ヒノワの言葉に顔を逸らす、アリア達もそうだが臆面もなくこう言う事を言われるのは慣れない。


「……酒はもうないのか?」


「いえ、もうひとつあります」


ヒノワは空になった酒瓶を置いてもうひとつの栓を開けて注がれる、先程のとは香りが違うな感じながら口に運んだ。


「別の酒か」


「はい、それはルスクディーテさんが飲ませてやれと渡してくれたものです」


言葉の意味を理解した時には酒は喉を通り過ぎていた……。















翌日、起きると裸のヒノワが隣で寝ていた。

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