45:再戦に向けて
「本当に鬼を引き込んだか……」
イルマが信じられないとでも言う様にセツラを見る、それほどまでに恐れられていたのだろう事が見て取れた。
「セレナ、すまないがセツラを色々面倒見てくれないか」
「面倒ですか?」
「ああ、身なりとか色々とな」
「分かりました、ヒノワさん手伝っいただけないでしょうか?」
「は、はい」
ヒノワは恐る恐ると言った様子でセツラを見る、セツラは気にしていない様だが……。
「大丈夫だ、セツラは突然暴れたり襲い掛かりはしない」
「うん」
「ふふ、ひとまずは体を綺麗にしましょうか」
セレナとヒノワはそう言ってセツラを連れていく、それを見送るとアリアが傍に来た。
「この前見た時と雰囲気が全然違うわね」
「錆不離に取り憑かれた状態だったらしい、あれがセツラの素の様だ」
「なるほどね、ところで……」
アリアにじっと俺を見ながら聞いてきた。
「あの娘、なんでベルクの服着てるの?」
「……服がボロボロだったから代わりに着せただけだ、手は出してない」
「そう、とうとうシュリンより小さい子に手を出したかと思ったわ」
「これまでの事が事だから言い返せないが……セツラはアリアより年上だぞ」
「……え?」
アリアが驚きの表情を浮かべるが話が更に脱線しそうなので話を切り替える。
「イルマ、工作は進んでるか?」
「うむ、ラクルとシュリンが主となって進めている」
「斥候から連絡は?」
「今のところ動きはない、おそらく進軍のタイミングは予想通りと思われるが……」
イルマは少しだけ逡巡した様子を見せる、それは戦に対する不安だけでなく俺の作戦にもあるだろう。
「やはり思うところがあるか?」
「……己の城でなくとも城主だった身としてはな、だが戦に身を置く者として見ればこれ以上に有効な策も考えつかん」
イルマは領主としてだけでなく武人としての視点も持つ男だ、それに必要とあらば己の心を押し殺して決断する事も出来る。
「……領主と武将のふたつの視点から物事を考える、アンタのそういうところ俺は気に入ってる」
「ふん……」
「アンタは俺達に力を貸してくれる事を選んでくれた、それを後悔させたりはしない」
「当然だ、我等が負ければヒヅチが終わる……貴様には是が非でも勝って貰わなければならん」
イルマは腰の刀に触れながら俺を見る、その眼には覚悟の光が宿っていた。
「その為ならば相手が最強の将と軍であろうと……命を懸けて戦う理由としては充分だ」
イルマの言葉に思わず笑みを浮かべながらもオヅマがある方を見ながら考える、勝つ為の手立てを止める事なく。
前回は相手の土俵で戦って負けた、セツラが来なければ被害は多くなっていただろう。
だから今度は、こちらの土俵に引きずり込んでやる。