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37:番狂わせ


それは突然現れた。


背丈はシュリンと同じくらいだろうか、ボロボロの服に延び放題の髪、垣間見える細い四肢は飢えた子供の様に見える。


だが額に生える角に全身から発せられる身の毛がよだつ闘気、何よりも手にした半月斧(バルディッシュ)の穂先を大きくした様な独特の形状の大剣が尋常じゃない重圧を放っていた。


「あは」


角の生えた子供が大剣を一薙ぎする、鎧を着込んだオヅマの兵達の体が上下に分かれた。


「あはは」


大剣を振るいながら角の生えた子供がこちらに向けて走る、大剣を振るう度にオヅマの兵達が紙切れの様に吹き飛ばされていった。


「あはははははははははははは!」


笑い声が響き渡る、それを聞いたオヅマ兵達はあの介者部隊さえ恐れの色が浮かんでいた。


「鬼だ……」


誰かがそう呟く、それは波紋の様に伝播してオヅマ兵達に伝わっていった。


「鬼だ!鬼が出たぞ!」


「に、逃げろ!」


「うわあああっ!?」


精強な筈のオヅマ兵達が恐れを露にして後退する、介者部隊の鎧武者は鬼と呼ばれた子供に立ち向かうが一薙ぎで鎧ごと壊された。


子供は真っ直ぐに俺に迫る、大刀を手にして振り下ろされた錆だらけの大剣を受けた。


「ぐっ!?」


受けた衝撃が全身を通して地面に伝わる、地面が砕け打ち合った衝撃が周囲に広がった。


「あはは、一回で終わらないんだ」


着地した子供は大剣に結んでいた紐を掴んで振り回す、周囲の兵達を斬り飛ばしながら迫る刃を大刀を地面に突き刺して受け止めると子供は紐を引っ張って大剣を戻すと地面を抉りながら突進してきた。


(鬼、だったか)


周囲の状況など気にしない、全てを薙ぎ倒す圧倒的な力は確かに人ならざる者としか思えない。


だが同時に今流れを変えるには都合が良かった。


俺は鬼が繰り出す攻撃を受けるのではなく避ける事に専念する、理由は分からないが鬼は俺を狙っており周囲を蹴散らしながら追ってきた。


俺が避ける度にオヅマ兵達が吹き飛ばされる、俺が逃げれば逃げるほど鬼は俺を追いかけオヅマ軍の被害は増えていった。


すると横から鬼に向けて炎雷が襲い掛かる、双刀を振り抜いた体勢のシオンが叫んだ。


「全軍撤退せよ!巻き込まれるぞ!」


シオンの号令によってオヅマ軍が引き上げていく、シオンは俺を見ながら告げた。


「鬼が現れるのは予想外だったが……巻き込まれる訳にはいかん、さらばだ」


そう言って兵達と共に引き上げるシオンを見やるが炎雷を受けた筈の鬼から放たれる重圧に視線を戻す。


炭化した左腕がみるみる内に治っていく、鬼は治癒が終わると狂気を孕んだ瞳で俺を捉えた。


魔石で作った信号弾を上げる、これは即時撤退しろという合図でこの距離ならアリアとラクルに伝わる筈だ。


「あはは、あ-、久しぶりに痛かったなぁ」


鬼は笑いながら大剣を振り上げる、そして目に見えるのではないかと思えるほどの闘気を滾らせて襲い掛かってきた。


鬼が大剣を振るう度に大地が裂けて大気が悲鳴を上げる、まともに受ければただでは済まないだろう錆だらけの刃を避け、受け流し、いなして時に防ぐ。


「凄い凄い凄い凄い! 僕の力にこんなに耐えるなんて!、僕相手に壊れないなんて!」


鬼は喜びを隠す事なく大剣を振り続ける、振るわれる力は更に増していった。


「もっと! もっと戦おうよ! もっと!!」


鬼が笑いながら迫ってくる、オヅマの兵は影すらなくなったところで信号弾がふたつ上がった。


大剣を受け止めて鍔迫り合いとなる、鬼は凄まじい力で押しつけてくるが真っ向から押し合った。


「悪いが、今回はここまでだ」


そう呟くと軍装を解除する、数万の魂が闇の暴風となって周囲一帯に吹き荒れ、鬼を吹き飛ばした。


鬼が大剣で地面を抉りながら止まる、顔を上げるが既に周囲に姿はなかった。


「……あ-あ、逃げられちゃった」


鬼の呟きが荒れ果てた戦場に消えていった……。

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