24:出迎え
グルシオ大陸からヒューム大陸へは船で二日ほど掛かる、その間を部屋で缶詰めになっているのも気が滅入るので甲板で海を眺めながら互いの事を話していた。
「じゃあベルクにはお兄さん以外に頼れる人はいなかったの?」
「そうだな、あの時は兄貴以外は俺を見てくれる奴はいないって思ってた」
「…あの時って事は今は違うの?」
「…二年間冒険者として生きてる内に気付いていなかった事に気付いた、全員がそうじゃなかったって事に」
ベルガ王国にいた時の事を空を見上げながら思い出す、大半は今思い出しても不愉快な気分になるが決してそれだけじゃなかった。
「テレジアは兄貴と比べてこそきたが俺の努力を認めていたし、それに今思えば最初から比較してなかった奴がもう一人いた」
「もう一人って誰?」
少しだけ物思いに耽る、あと一歩で届かなかった寡黙だったが誰かと比べたり下に見る様な事はしなかった奴の事を。
「ラクル=ヴァリアント、騎士団長の息子で同年代の剣術で俺が唯一勝てなかった奴だ」
「ベルクが勝てなかった、ね…でも今はベルクの方が強いんじゃないの?」
「どうだろうな…どちらにせよ国に帰るつもりはないし、どうでもいい」
「そうなの?」
「意地張って癇癪起こして、周りは敵だらけだと勝手に思い込んで逃げ出して迷惑掛けたんだ…今更合わせる顔がない」
部屋に戻ると言い残して甲板を後にする、少し喋り過ぎた気がするがアリアになら別に良いかと思い直しながら部屋に向かった。
「そっか、戻るつもりはないんだ…」
甲板で一人、アリアはそんな事を呟いていた…。
―――――
ミルドレアの港町に着いて目につくのは町を警備している兵士だった、鎖帷子の上にミルドレアの紋章が刻まれた赤い貫頭衣を纏った兵士は立ち姿から良く鍛えられているのが分かる。
「流石は獅子の国か」
「国の成り立ちが成り立ちだからね、やっぱり武術が盛んだよ」
アリアと共に船着き場から町へ入るとワーカルトに劣らない盛況ぶりだった。
「ひとまずは馬車の手配か?」
「うーん…二人だけだし馬二頭買って向かう方が良いじゃないか、な…」
アリアが話している途中で固まる、視線の先を見ると奥から人混みがふたつに分かれていっていた。
やがて俺達の前まで分かれて開けた視界の先から揃いの鎧を纏った一団がガシャガシャと音を響かせながら真っ直ぐとこちらに向かっていた。
兵士の物とは比べ物にならない全身鎧を纏った一団、ミルドレアの帝国騎士達はアリアの前で止まると一人だけ炎の装飾がされた緋色の鎧を纏った騎士が進み出てきた。
「お久しぶりです、アルセリア様」
「…ボルガ、どうしてここに?」
「それを含めた問いにはこちらがお答えいたします」
緋色の騎士が手で合図をすると後ろに控えていた騎士が精密な刻印がされた水晶を緋色の騎士へと渡した。
水晶がこちらへ差し出されると淡く輝き出して光が輪郭を形作っていった。
『お?おー繋がった繋がった、やほーアリアちゃん久しぶりー、一年も連絡なかったから心配したんだよー』
形作られたのはアリアに似た女性の顔だった、聞こえてきた声はアリアに似てはいるがどこか間延びした雰囲気を醸し出していた。
「フィリア姉さん、どうして私の居場所が…」
『なはははは、お姉ちゃんは可愛い妹が帰ってきたらすぐに分かるものなのさ、迎えに行くのは私じゃないけどねー』
「も、もしかしてなにかの魔術を…」
アリアが自分の体を見回す、俺はふとアリアが会った時から持っていた長剣の柄に目がいった。
「アリア、その長剣の柄に嵌まってる魔石だ」
「え?」
「魔石に術式が刻まれてる、おそらく探知魔術のマーカーだ」
『おやー?よもや見抜かれるとは…結構手間掛けた物なんだけどねー、君もしかして魔道具職人かな?』
「いや、ただの冒険者だ」
『ふーん…』
女性はどこか観察する様な眼でこちらを見てくるが少しして「まあ良いか」と言ってアリアに向き直った。
『まあとにかくボルガ君達に馬車を手配させてるから一度城に帰ってきなー?姉さ…皇帝陛下も首を長ーくして待ってるよー』
「…うん」
『まあいくら魔大陸でも“獅子”に匹敵するのなんか早々見つからないでしょー、今回は勝手に出てったのも含めて大人しく怒られ…』
「ううん、“獅子”は見つかったよ」
アリアがそう言った途端ピタリと言葉が止まる、水晶を持った緋色の騎士も反応していた。
『…マジ?』
「うん、そのひとつは彼も持ってる」
女性と緋色の騎士がこちらを見る、さっきまでとは違い信じられないという驚愕した気配が伝わってきた。
『…マジ?』
女性の声がポツリと零れる、どうやらラウナス教国に向かうにはこの厄介事をなんとかしないとならない様だ…。