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31:本来の飛燕


アメリは居合いの構えから魔力を凝縮していく、放たれる重圧はアメリの歳を考えれば優れていると言って良いものだ。


……だがそれは抑え切れぬ感情によって“飛燕”に似て非なるものとなってしまっている。


アメリが地面を凹ませる勢いで踏み込む、一蹴りで互いの距離を詰めて鞘から刀を引き抜き……。


その半ばで踏み込んだ俺が左手でアメリの刀を持つ手を掴み押さえていた。


「なっ!?」


止められると思っていなかったのかアメリが驚愕の声を上げる。すぐに振り払おうとするが刀を脇に差し込んで動きを抑え拘束する。


「くぅ!?」


「……何故自分の命を守ろうとしない?死ぬのが怖くないのか?」


「うるさい!敵を倒せば守る必要なんてない!敵がいなくなれば母様も姉様も危険な目に遭わなくて済む!」


身を捩りながらも俺を睨みつけるアメリは悔し涙を流しながら叫んだ。


「なら聞き方を変えよう……()()()()()()()()()()?」


「え……」


アメリが動きを止める、眼に宿る激情が僅かに揺らいだ。


「例え自分の命と引き換えになっても敵を倒せとクノウはお前にそう教えたのか?それともお前が自分で考えて出した結論なのか?」


「それ、は……」


「クノウはどんな顔をして……何を思ってお前に剣を教えた!?今のお前の剣を見てクノウは何を思う!?」


魔力と共に重圧を放出しながら問い掛ける、体を震わせるアメリに畳み掛ける様に言葉を投げつけた。


「自分の命すら守れない者が……何を守れる!?何を貫き通せると言う気だ!!」


拘束を解いて突き飛ばす、ふらつくアメリから距離を取ると重心を落として構えた。


「来い、お前が今出せる全て……全身全霊の一撃を放ってみろ。

……クノウがお前に託そうとした剣を教えてやる」


アメリは気を取り直すと同じ様に構える、先程よりも濃く魔力を凝縮していき強い重圧を放つ。


対して俺は静かに魔力を練り上げる、一切の魔力を外に漏らさず己が内に凝縮していく。


アメリの放つ魔力が高台にある草木を揺らして鳴らす、俺は微動だにせず静かにアメリを捉えていた。


アメリが地を蹴る、一迅の突風の如く駆け抜けて一瞬で俺の目の前に迫る。


刀が鞘から引き抜かれる、振るわれた刃は月光が照らす暇もなく俺の首に向かっていた。












甲高い音が高台に響き渡る。


月光を反射しながら宙を翻って地面に刺さる刃は半ばから断たれていた。


高台には振り抜いた体勢の俺とアメリの姿がある、呆然とするアメリはやがて折れた刀を見つめながら腰が抜けた様に座り込んだ。


「……命の奪い合いとなるのを防ぐ為に相手よりも()()()()、相手が戦うのをやめなかった時に相手よりも()()()()


刀を鞘に納めながら語る、“飛燕”に込められたクノウの願いを。


「相手の命を奪う事を防ぐ為に静を以て見極め、そして相手が誰かの命を奪う前に動を以て斬る……その静から動への切り替えは空を自在に飛ぶ燕の如く」


キン、と鞘に納まる音が響き渡る、刀は闇となって俺の中に戻る。


「“飛燕”は……自他問わず命を守る為に編み出された剣術だ」


座り込むアメリの横を通りすぎながら告げる、俺から伝えられるアメリがやるべき事を。


「クノウの教えを今一度思い出せ、クノウがお前にどんな思いで剣を託したか……技に込められた願いを考えてみろ。

それが出来た時こそ、お前は本来の“飛燕”をものに出来る筈だ」


高台を後にして城に戻る、少し熱くなってしまった自分にため息をつきながらも月を見上げて呟いた。


「これが精一杯だ、クノウ」


カオスクルセイダーの中にある魂に呟きながら見上げる月は変わる事なく夜空を照らしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] "後の先"を追求した技を"先の先"の意識で得ようとしても、そりゃ別物になりますわな。
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