20:壮年の騎士の評価(帝国side)
「ほら、王手ですぞ」
ミルドレアの帝都にある砂陣騎士ロスフォールの屋敷、その一室で二人の壮年の騎士……ボルガとロスフォールが戦戯盤というロスフォール手製のゲームをしていた。
ゲームと言っても様々な地形と多種多様な役割を与えられる駒を使って行うそれは戦での作戦立案にも動きの想定でも使える造りで戦戯盤の盤面や駒を作るのはロスフォールの楽しみのひとつでもある。
「ま、待った」
「待ったは三度までですぞ、それにベルク殿であれば私とやる時は戦場で待ったはないと一度も使ってません」
「む、むう……参った」
ボルガは頭を掻きながら降参する、ロスフォールは温くなった紅茶を飲みながら呟いた。
「戦場ならば獣の如き勘で危険を察知できるのに戦戯盤となると途端に発揮されませんねぇ……貴方と付き合いは長いですがそれが分からない」
「言うな、それにしてもベルク殿ともやっているのか」
「ええ、最近では私でも唸ってしまう一手を打ってきますのでやりごたえがある」
戦戯盤は実際の戦場を想定したもの故に遊べる者が少ない、ボルガを除くと相手となれるのはランディル以外の称号騎士だが彼等も忙しい身だから中々誘えず、ロスフォールの団でもやれるのは数人ほどしかいなかった。
親交を深める為にベルクを誘ってみたところ、今ではロスフォールの相手を務められるくらいになっていた。
「となると使う駒は黒嵐騎士団か?」
「いえ、私も駒を作ったのですがベルク殿が数度使ったところでこれだと戦略性に欠けると最近は私と同じ持ち駒でやってますよ。
……その上で唸る一手を打たれてるのです」
「なんと……」
ボルガは思わず呟く、ロスフォールは巧みな軍略や戦術を実行に移し実現させる戦術家としての能力で称号を得た男だ。
その男と同じ条件で唸らせるほどの一手を打つ、おべっかや忖度を嫌うロスフォールにそう言わせる時点でベルクは個人だけでなく将としての戦才があるのだ。
「今頃はヒヅチで戦っているのでしょうな、叶うのならばこの眼で見てみたかったですな」
「確かにベルク殿の実戦での采配は気になるところだがお主がそこまで言わせるほどか」
ボルガがそう言うとロスフォールは紅茶を飲み干してポツリと呟いた。
「考えてみなさい、ベルク殿は黒嵐騎士団を戦戯盤では意図的に使わずにいるのに私の相手をできるのです。
……ですが実戦となればベルク殿は黒嵐騎士団の力を遺憾なく発揮するでしょう、そこに彼の策を実行に移せる軍が加われば」
ロスフォールの呟きにボルガはぶるりと背が震えた。
「それこそベルク殿に匹敵する相手がいなければ一方的な蹂躙となるでしょうな」